四月のきみが笑うから。
青春

 走って、走って。

 呼吸が苦しくなっても、止まることなく必死に走った。


 遠い遠い堤防にすらりと立つ影が見える。

 あの姿は先輩だと、はっきりと思えた。


琥尋(こひろ)先輩……!!」


 大声で名前を呼んだ瞬間びくりと先輩の肩が震えた。

 それでも振り向かない先輩は、目の前に広がる海を眺めて佇んでいる。


「先輩……!」


 何度も何度も呼んで、距離を縮める。

 あと一歩踏み出せば海に落ちてしまう。


 そんな場所に、先輩はいた。


「やっぱりここにいたんですね。もう少しこっちに来てください、先輩」

「何で来たんだよ。俺は瑠胡が……きら────」

「わたしは好きです」


 ヒュ、と先輩が息を呑んだ音がした。

 先輩が発している雰囲気が、この世界を拒絶するかのように深く深く広がっていた。


 けれどそんなもの、わたしがいくらだって取り払う。

 
「わたし、先輩のことが好きなんです。先輩はわたしのことが嫌いでも、わたしは違う。だから、最後に全部伝えてしまおうと思ったんです」

「……困るんだよ」

「それでもいいです。自己中心的でも構いません。ウザがられても、迷惑だと嫌われても、それでもわたしは先輩が好きですから」


 やっと言えた。

 こんなふうに一方的に感情をぶつけることが、正しいとは言えないけれど、それでも。


「先輩、こっちに来てください。落ちてしまいます」


 何も言えないまま別れになることを思えば、最善の選択だったと言えるだろう。

 まだ動かない先輩は、黙ってわたしの言葉を聞いている。
 
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