四月のきみが笑うから。


「お父さん、お母さん。話があるの」


 リビングには、仕事帰りの両親がいた。

 疲れきった表情で、ソファや椅子に座っている。わたしが声をかけると同時に、どこか焦点を定めていない瞳が動き、わたしを捉えた。


「……わたしね、将来の夢が決まったんだ」


 無表情のままたたずんでいる二人。

 聞いているのか聞いていないのか分からないけれど、わたしは息を吸ってその先を続けた。


「その夢を叶えるための勉強はこれから自分でやっていくつもり。頑張って叶えられるように、しっかりやるべきことを果たそうって思う」


 興味すらなくなってしまったのだろうか。

 以前のわたしなら、両親がこんな状態になってしまったら泣き叫んで謝っていただろう。従うからどうか見捨てないでくれと喚いていたに違いない。


 けれど今のわたしは、自分でも信じられないくらいひどく冷静だった。

 自分の伝えたいことを言うことができれば、相手の反応なんてどうでもいいと思えるようになっていた。


(だって昔は、きっと期待してたから)


 良い点をとって帰れば「すごいね」「頑張ったね」と褒めてもらえると思っていた。

 だけど実際はできない部分だけを見られて、「できるところ」にはいっさい目を向けてくれなかった。


 わたしはずっと両親に【できる子】だと思われたかった。うちの子はすごいのだと、誇ってほしかったのだ。


「わたしはこの先やりたいことをやって、学んで、楽しみながら生きていく。自分の人生は自分で決めるから」

「……」

「お母さん」


 呼ぶと、お母さんが顔を上げてわたしを見つめる。光を失ったような目だ。

 けれど前みたいに失望の色に染まっているわけではない。
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