四月のきみが笑うから。
花曇
 四月は嫌いだ。
 すべての始まりの月だから。


 数々の出逢いと別れを涙とともに(すく)っていくから、わたしは四月が大嫌いだ。
 最寄駅に向かいながら、幾度となく吐いたため息を今日も静かに吐き出した。


「……気持ち悪い」


 ぐぐっと腹の底から何かが迫り上がってくるような気がして、思わず口許を押さえる。
 よろよろとふらつきながら、重たい荷物を肩に掛けて歩く。暗い色をしたコンクリートの壁に縋るようにしていないと、すぐにでも倒れてしまいそうだった。


 今日も一日乗り切った、と胸の内で自分を褒め称える。帰りのホームルームを終え、駅まで歩いているこの時間に勝るほど安心する時間はない。


 ようやく解放される。少しは楽になれる。
 そんな意識と、襲ってくる吐き気をなんとか(こら)えながら、細い息を吐き出して呼吸を整えた。


 中学生のときよりも二時間もはやく起きて、電車で通っている高校。たくさんの出会いで笑顔が花咲く四月、わたしはまだ一度も笑えていない。


 完全な選択ミスをしてしまった。
 どうしてこんなところに進学しようと決めてしまったのか、三ヶ月ほど時間を戻して、受験期のわたしに問いかけたい。


 あなたはなぜその高校に行きたいの?
 将来何になりたくて、何をするためにそこに通おうと決めたの?


 そうしたら、きっと過去のわたしは言うだろう。『分からない』と。
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