冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
わたしの口からは、そんな言葉が吐き出された。
「お褒めに授かり光栄です」
冗談めかした言い方で、飛鳥馬様が上品に笑う。
わたしを見つめるその瞳が、幾分か優しい色をして見えたのは、わたしの見間違いだろうか。
「それでは、私は一度退出させていただきます。身も心も震えるほどの優雅な夜をお過ごしくださいませ」
これまで口を開くことなく飛鳥馬様の後ろに従いていた仁科さんが恭しくお辞儀をして、飛鳥馬様が「うん」と頷いたのを確認し、静かな足取りでどこかへ去って行き、姿を消した。
「……あの、というか、わたしみたいな庶民がこのような場所に入ってもいいのですか?」
恐る恐る訊ねる。
きっと、本当だったらわたしなんかが入れる場所じゃない。皇神居が建つ半径300メートル以内の区域への侵入さえ許可されないだろう。
それなのに、なぜ……。
「うん、もちろん。……それに、何よりおれが、あやちゃんにここへ来てほしかったから」