冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


『…っへ、え!!?……っ、な、なぜですかっ?』



取り乱す彩夏が、あの頃はただただ可愛かった。


……彩夏、俺、本当は母さんにも父さんにも、愛されてないんだ。

あの人たちは、俺のことをただの商売道具としか見ていない。


彩夏の手首を掴んでいない方の手に握ったこのハンカチは母さんが俺にと作ってくれたものだったけれど、それはもう随分と前の大昔の話。


赤ん坊じゃなくなって、成長していくごとに可愛げもなくなって、両親は俺に沢山のことを求めてきた。


それが、心底嫌だった。苦しかった。息ができなかった。



『一目惚れしたから……です』

『…ええっ!?ひ、一目惚れ……でもわたし、まだあなたの名前も知らなくて…』



……それでも、きっと。

この子の隣にいれば、俺は楽に息を吸える気がする。

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