冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
常に穏やかで、慎ましく、静かに微笑みを浮かべているような読めない男。
否、その本性を暴かれないように“完璧”という名の仮面を被っているだけの汚い男。
天馬伊吹にとって、飛鳥馬麗仁とはそういう人物だった。
「逆に、なんでこの俺がこの街にいたことに気づけなかったのか、問いたいところだ」
この男を煽るのは愉しい。
自分と同じ、もしくはそれ以上に強い相手を軽んじるのは、こんなにも面白いのだ。
「……ふっ、いつまでそう強がってられるかな。お前の肝試しが心底楽しみだよ」
……イラッ。
本当に、人を煽り返すのが巧い。
「───おい。ヤるか?」
「ううん、ヤんない。ここは俺の管轄地だからね。この街の住民にあまり怖い思いはさせたくない」
「……っふ。随分とデッケぇ猫を被ってやがる」