冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
────ガチャッ。
夜の静寂を破ったのは、突然開け放たれたベンツのドアの音だった。
俺は素早くあちらの様子を窺う。
あちら側からは死角になっている住宅街の曲がり角の所に、千明が呼んだ部下たちはもうすでに待機している。
俺の隣に立つ人物は、今か今かとウキウキしている様子だ。
……全く、この男は恐ろしい。
「──やあ、西ノ街の皇帝サン。久しく顔を見ていなかったね。天馬伊吹」
「……ああ、そうだな。───飛鳥馬麗仁」
そうフルネームで呼び合う俺たちには、端から見ればとんでもなく険悪なムードが流れているように見えると思う。
だが、別段そういうことはない。
この感じが、俺とこの男の普通だ。
「さっそく聞きたいんだけど、なんでお前がここにいるの?」
丁寧な話し口調は昔も今も変わっていない。この男は、己の本性を隠している。