冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


どれくらい唇を重ねていただろうか。


お互いにハァハァと息を漏らしながら、ゆっくりと唇を離した。そこには透明な唾液の糸が伸び、どれだけ長いキスをしていたのかが分かる。


キスが終わり、突然吹いてきた風によって相手の人の匂いがわたしの鼻に伝わった。


────……え?


わたしの瞳孔が、大きく揺れ動く。これ以上ないほどに自分の目が驚きに見開いていくのが分かる。


だって、今嗅いだこの匂いは、この匂いの持ち主は───。



「飛鳥馬、様………ッ」



昨日の夜、あのコンビニの駐車場で嗅いだことのあった匂い。正しく今わたしが香った金木犀のような柑橘系が特徴的な、大人っぽい印象の匂い。


それが、飛鳥馬麗仁本人の体から昨夜も香っていたものと同じだった。


あの時は出来なかったことを、今日はしないといけない。


わたしは恐る恐る顔を上げ、感情の読めないどこまでも漆黒な瞳と目を合わせた。


一本一本の髪が細い、サラサラな長い前髪の奥から、わたしをどこか冷たい瞳で見下ろす飛鳥馬様の冷酷すぎる瞳。

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