冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


だけど、その驚きよりもまず初めに感じたのが、なぜそんな当たり前のことを飛鳥馬様がわざわざわたしに質問してきたのか、だ。



「……はい。なぜ、そのようなことを?」



飛鳥馬様の真意を探るように、訝しげにその方のお顔を見ながらそう訊ねた。


今、こうしてこの街のトップと普通に話せているのは、きっとこの人の纏う空気が昨日感じた皇帝としての殺気とは違うから。



「ははっ、うん。…そっか、そうだよね」



わたしのその答えを聞いた飛鳥馬様は、なぜか自嘲気味に、自分に言い聞かせるような声音で発した。

それには少しだけ元気がなくて、さっきとは打って変わって暗い雰囲気が漂っている。


飛鳥馬は少し顔を傾けて、わたしから自分の顔が見えなくなるようにした。だけど、一瞬見えてしまったその表情。


この街の皇帝とは思えない、悲しく歪められた表情。


わたしはそれを、見なかったことにするしかなかった。


……なぜ、飛鳥馬様がここにいるの?

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