冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
だけど、そんな不敬な行いはこの方の前では決して許されることではない。わたしは勇気を振り絞って背後を振り返った。
怖がっていることを悟られないように、強い視線で飛鳥馬様を射抜く。わたしは別に、あなたと目を合わせるのが怖いというわけではない。
そんな意味を込めて。
「……ははっ、君って面白いね。俺が今言ったこと、じょーだんだよ。じょーだん」
飛鳥馬様は、無理に明るい声で笑っているように見えた。どうして、わたしみたいな格下の庶民に本心を隠すのだろう。
あなたはこの街において神よりも尊ばれるお方なのだから、この街を統べる皇帝なのだから、己の権力を振りかざしてでもわたしに望むことを命令すればいいのに。
飛鳥馬様のことをよく知らないわたしは、そう思ってしまう。けれど、断じて飛鳥馬様に連れ去られたいわけじゃないけれど……!!
強がってはいるけど、や、やっぱりその光景を想像しただけで全身の穴という穴が鳥肌を立ててしまいそうだし……っ。
「そ、そうですか……。よかっ…た、」
“よかったです”と途中まで言ってから、しまったと思った。わたしが安心しているとバレてしまったら、あちらがまた何を仕掛けてくるか分からない。