後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
選択
「でも大変ね。これからは術師としても働くんでしょ?」
「それなのですが」
馬宰相がぽんと両手を合わせて言う。
「術師として本格的に働くのであれば、当然宮女との両立は難しいです。なので、選んでください。術師としてか、宮女としてか、どちらで働きたいのかを」
「ええ……!」
人の役に立てるならと思っていたが、そこまで考えが至らなかった。卒業したら選択しなければならないとは言っていたが、まだまだ先のことでその時考えればいいと後回しにしていた。横にいる馬星星も顔色が悪い。
「こんないきなり!? そう、まだ座学を学んでいないわ。それまではなんとか」
「中途半端はあまり歓迎出来ません」
馬宰相の言い分はもっともだ。しかし、学んでもいないのに、術師を選んで上手くいくのか自信が無い。それに、後宮の外で働くこともあるとすると、もうこの部屋にもいられないかもしれない。ただ、未来への可能性があるなら、女性では珍しい術師に挑戦したい気持ちもある。
「迷っていますね」
「はい。突然だったので……申し訳ありません」
「そうですね。それに、術師で女性は一人もいらっしゃいませんし」
「一人も!?」
珍しいとは思っていたが、一人もいないとは想定外だった。夏晴亮が驚いていると、奥でがたりと音がした。そちらを見遣る。任深持が絶望顔で立っていた。
「術師、だと……?」
「わっ」
第一皇子が来ることは稀なため、夏晴亮が思わず声を上げる。任深持が一歩、また一歩と近づいてくる。
「皇子、少々不気味で御座います」
「お前に言われたくない。それより術師の話をしていたな? まさかそこの新人に担わせることはないだろうな」
任深持の瞳に怒りと焦りが籠っている。馬星星が夏晴亮の背中を擦った。
「任深持様、ご心配なさらないでください。私は宮女として雇ってもらい、まだまだ見習いの身です。宮女として一人前になってから、術師については考えようと思っております」
「亮亮」
「ふん。自分の立場を少しは理解しているようだ」
彼がやってきて事が収まるよう出てきた言葉だが、それに嘘は無かった。雇われてまだ数週間、未熟なところばかりだ。今すぐにでも術師を補充しなければならない程ではないだろうから、少しずつ成長して、改めてその時に選択させてもらいたい。
「そうですか。私どもはいつでも歓迎致しますので」
「有難う御座います」
「帰るぞ、馬牙風」
「あれ、そちらのお花」
夏晴亮が、任深持が一輪の花を持っていることに気が付いた。任深持の顔が今度は真っ赤に染まる。
「これは! 拾ったのだ! 処理に困っていたところだから、お前に渡しておく」
「そうでしたか。それではお預かりします」
「これからも掃除をしっかり頼むぞ」
「はい」
花を受け取ると、第一皇子は速足で帰っていった。
「お忙しいんですね、あんなに慌てて」
「そうね~」
馬星星が生温く笑って答える。
「このお花……」
落ちていたという花は、部屋の前によく置いてある花と同じ種類のものだった。
「それなのですが」
馬宰相がぽんと両手を合わせて言う。
「術師として本格的に働くのであれば、当然宮女との両立は難しいです。なので、選んでください。術師としてか、宮女としてか、どちらで働きたいのかを」
「ええ……!」
人の役に立てるならと思っていたが、そこまで考えが至らなかった。卒業したら選択しなければならないとは言っていたが、まだまだ先のことでその時考えればいいと後回しにしていた。横にいる馬星星も顔色が悪い。
「こんないきなり!? そう、まだ座学を学んでいないわ。それまではなんとか」
「中途半端はあまり歓迎出来ません」
馬宰相の言い分はもっともだ。しかし、学んでもいないのに、術師を選んで上手くいくのか自信が無い。それに、後宮の外で働くこともあるとすると、もうこの部屋にもいられないかもしれない。ただ、未来への可能性があるなら、女性では珍しい術師に挑戦したい気持ちもある。
「迷っていますね」
「はい。突然だったので……申し訳ありません」
「そうですね。それに、術師で女性は一人もいらっしゃいませんし」
「一人も!?」
珍しいとは思っていたが、一人もいないとは想定外だった。夏晴亮が驚いていると、奥でがたりと音がした。そちらを見遣る。任深持が絶望顔で立っていた。
「術師、だと……?」
「わっ」
第一皇子が来ることは稀なため、夏晴亮が思わず声を上げる。任深持が一歩、また一歩と近づいてくる。
「皇子、少々不気味で御座います」
「お前に言われたくない。それより術師の話をしていたな? まさかそこの新人に担わせることはないだろうな」
任深持の瞳に怒りと焦りが籠っている。馬星星が夏晴亮の背中を擦った。
「任深持様、ご心配なさらないでください。私は宮女として雇ってもらい、まだまだ見習いの身です。宮女として一人前になってから、術師については考えようと思っております」
「亮亮」
「ふん。自分の立場を少しは理解しているようだ」
彼がやってきて事が収まるよう出てきた言葉だが、それに嘘は無かった。雇われてまだ数週間、未熟なところばかりだ。今すぐにでも術師を補充しなければならない程ではないだろうから、少しずつ成長して、改めてその時に選択させてもらいたい。
「そうですか。私どもはいつでも歓迎致しますので」
「有難う御座います」
「帰るぞ、馬牙風」
「あれ、そちらのお花」
夏晴亮が、任深持が一輪の花を持っていることに気が付いた。任深持の顔が今度は真っ赤に染まる。
「これは! 拾ったのだ! 処理に困っていたところだから、お前に渡しておく」
「そうでしたか。それではお預かりします」
「これからも掃除をしっかり頼むぞ」
「はい」
花を受け取ると、第一皇子は速足で帰っていった。
「お忙しいんですね、あんなに慌てて」
「そうね~」
馬星星が生温く笑って答える。
「このお花……」
落ちていたという花は、部屋の前によく置いてある花と同じ種類のものだった。