後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

解決

 抵抗することなく、任明願(レン・ミンユェン)が連行されていく。彼は宮廷追放の身となった。二度と会えないのだろう。短い期間の出来事なのに、彼との会話が寂しく思い出される。

「すぐ追放されるのですか?」

 せめて別れの言葉くらいは交わしたい。そう思って任深持(レン・シェンチー)に尋ねると、軽い調子で返された。

「すぐではない。いつになるか、一週間後か、一か月後か」

 彼にしては曖昧な返事だと思う。夏晴亮(シァ・チンリァン)は不思議に思った。

「まだ決まっていないということですか?」
子風(ズーフォン)の付き人の後任が決まり次第だ」
「なるほど」

 第二皇子の付き人ともなると、慎重に決めなければならない。前任が罪を犯したからといって、目を瞑って適当に選択してはさらなる悲劇の種となる。

「まあ、私としてはあいつを問題視していない。しっかりした後任来るまではいつまでいたって構わない。ただ、それなりの反省をしてほしかったのだ」
「そうですね。任先輩は思いやりのある方です。やり方は間違えてしまいましたが」

 一人で考え込まなければ、もっと良い方向に進んでいただろう。彼の未来が少しでも良いものに変わることを願う。

「これで一安心ですね」

 (ユー)を撫でながら言う。彼は夏晴亮の言うことを聞き、立派に任務をやり遂げてくれた。後で思い切り遊んでやろう。横にいる任深持が首を振った。

「いや、これが解決しても、私への敵意が減っただけに過ぎない。実際に毒殺計画も立ったことがあったし」
「毒殺……!」
「お前が食べた饅頭があっただろう。あれは致死性の毒だ」

 任深持と初めて会った時のことを思い出す。あの時の彼は異形の怪物を見るような目をしていた。

「その時の犯人は捕まったのですか?」
「すぐに」
「犯人は追放されたとか?」
「もういない」
「いない?」

「もうこの世にいない」
「あ、そういう」

 聞かなければよかった。罪の重さに見合った罰を与える、当然な裁きだ。あの饅頭は美味しかった。ただし、あってはならないものだった。だから根絶する。きっとこれまでもいくつもあったのだろう。怖くて悲しい話である。夏晴亮は拳を握り締めた。

「私、これからも頑張りますね」
「頼む」
「それでは、そろそろ失礼します」

 今は毒見師の仕事で席を外しているが、宮女の仕事も待っている。夏晴亮が退室し、任深持と(マァ)宰相が残された。

「とりあえず、しこりが取れましたね」
「ああ」
「それで、貴方の一番の問題はどうなさいますか?」

 馬宰相が問いかけると、任深持が不敵に笑った。

「心配ない。手は打ってある」
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