後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
契約結婚
任深持が頼りない力で、しかし強い意志で握り返す。
「ありがとう。私の全てで貴方を守ることを誓う」
いつもの彼とは正反対で、こそばゆい気持ちになる。後ろでけらけらと笑う声がした。
「そうだ。さっき、正妃には触らないっておっしゃってましたけど」
自分で髪飾りを付けたいと言う任深持の行動を許しつつ、思い出した疑問を正妃に投げかける。
「うん、合ってるわ」
「それじゃあ、お二人のご結婚は」
王美文が満面の笑みで頷く。
「契約結婚ってことよ」
「契約結婚!」
この言葉を聞くのも言うのも初めてだった。彼女は身分が高いであろうに、何故この結婚に同意したのだろう。
「不思議そうな顔してらしてよ」
「あ、すみません……」
「いいの。当然よ」
王美文が任深持を指差す。ようやく髪飾りを付け終えた任深持が気まずそうに視線を逸らした。
「彼と一緒。私も身分違いの実らぬ恋をしているのよ。彼はさっさと抜け道を見つけて実らせたけど、私は駄目だから」
「身分違いの……」
──私が言ったから、任深持様は私が納得てする方法を考えてたのね。
夏晴亮に言われても諦めなかった彼を見て、遠い存在だと思っていたのが遠い過去に感じた。意外と一途で、欲しいものを強請ると子どものようで。
──まだ自分の気持ちもよく分かっていないのに、側室なんて務まるかな。
不安が残りつつも、ここまで頑張ってくれたのだから、こちらも出来る限り歩み寄りたい。
「ねえ、ちょっと聞いてくださらない? 任深持様、もういいわよね」
「いい。私はもう一生分の幸せをもらった」
「なら、私の番ね」
意気揚々と任深持と交代した王美文が椅子を指し示した。なるほど、長話になるということか。任深持は公務があるらしく、部屋を出るとのことだった。
「好きに使っていい。終わったら女官を呼んで部屋を施錠しておいてくれ」
「分かりました」
向かい合って座る。初対面の相手、しかも正妃と二人で会話することになるとは思ってもみなかった。
「私ってば、絶対に実らない恋なの。だから少しでも近くにいられるように結婚の承諾をしたのだけれど。まだ会えていないし」
「ということは、宮廷内にいらっしゃる方なのですか」
「そう。馬牙風よ」
「馬宰相!?」
王美文の片思いの相手が予想の百倍身近な人間だったので、思わず大声になってしまった。
「彼なら宰相をされてますし、身分違いという程ではないのではないですか?」
「いいえ。あの方は低い身分出身なの。仕事を探してやってきた時、名前が第二皇子と似ているからと採用されたとかで、努力で今の地位になった。それでも、まだ私には釣り合わないと言われてしまって」
「そうですか……」
「ありがとう。私の全てで貴方を守ることを誓う」
いつもの彼とは正反対で、こそばゆい気持ちになる。後ろでけらけらと笑う声がした。
「そうだ。さっき、正妃には触らないっておっしゃってましたけど」
自分で髪飾りを付けたいと言う任深持の行動を許しつつ、思い出した疑問を正妃に投げかける。
「うん、合ってるわ」
「それじゃあ、お二人のご結婚は」
王美文が満面の笑みで頷く。
「契約結婚ってことよ」
「契約結婚!」
この言葉を聞くのも言うのも初めてだった。彼女は身分が高いであろうに、何故この結婚に同意したのだろう。
「不思議そうな顔してらしてよ」
「あ、すみません……」
「いいの。当然よ」
王美文が任深持を指差す。ようやく髪飾りを付け終えた任深持が気まずそうに視線を逸らした。
「彼と一緒。私も身分違いの実らぬ恋をしているのよ。彼はさっさと抜け道を見つけて実らせたけど、私は駄目だから」
「身分違いの……」
──私が言ったから、任深持様は私が納得てする方法を考えてたのね。
夏晴亮に言われても諦めなかった彼を見て、遠い存在だと思っていたのが遠い過去に感じた。意外と一途で、欲しいものを強請ると子どものようで。
──まだ自分の気持ちもよく分かっていないのに、側室なんて務まるかな。
不安が残りつつも、ここまで頑張ってくれたのだから、こちらも出来る限り歩み寄りたい。
「ねえ、ちょっと聞いてくださらない? 任深持様、もういいわよね」
「いい。私はもう一生分の幸せをもらった」
「なら、私の番ね」
意気揚々と任深持と交代した王美文が椅子を指し示した。なるほど、長話になるということか。任深持は公務があるらしく、部屋を出るとのことだった。
「好きに使っていい。終わったら女官を呼んで部屋を施錠しておいてくれ」
「分かりました」
向かい合って座る。初対面の相手、しかも正妃と二人で会話することになるとは思ってもみなかった。
「私ってば、絶対に実らない恋なの。だから少しでも近くにいられるように結婚の承諾をしたのだけれど。まだ会えていないし」
「ということは、宮廷内にいらっしゃる方なのですか」
「そう。馬牙風よ」
「馬宰相!?」
王美文の片思いの相手が予想の百倍身近な人間だったので、思わず大声になってしまった。
「彼なら宰相をされてますし、身分違いという程ではないのではないですか?」
「いいえ。あの方は低い身分出身なの。仕事を探してやってきた時、名前が第二皇子と似ているからと採用されたとかで、努力で今の地位になった。それでも、まだ私には釣り合わないと言われてしまって」
「そうですか……」