後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

差出人

「どうした?」

 黙ったまま動かない(マァ)宰相に任深持(レン・シェンチー)が話しかける。

「少々気になることが御座いまして。時間がかかりそうなので、この手紙を明日までお預かりしても宜しいでしょうか」
「構わない。もう誰の物とも分からないものだ」
「有難う御座います。明日報告させて頂きます」

 馬宰相が手紙を受け取ったことをもって、今日の調べものは一旦終了となった。
 一刻も経っていないが、宮女の一日の仕事より疲れた気がする。

「お疲れ様です」
「はい。夏晴亮(シァ・チンリァン)様もごゆっくりお休みください」

 手紙と数冊の本を持って馬宰相が廊下へ出る。任深持を部屋まで見送ると、一人で自室に入っていった。

「さて」

 椅子に腰掛け、本を開く。そこには歴代皇帝と、建国時の武将の名前と顔が描かれている。
 手紙の中に「超国」の文字は最後まで見つけられなかったが、馬牙風(マァ・ヤーフォン)が気になったのはそこではなく、名前の方だ。

李氏(リィし)……」

 才国から独立したのは李氏一族が主で、代表となっている人物が建国時の武将の一人である李友望(リィ・ヨウワン)だ。

「李……友、望」

 紙を透かし、裏返し、光に当ててみながらこの三文字がないか端の端まで探す。

 じっくり時間をかけていると、差出人が書かれているであろう箇所に薄っすら文字の一部が確認出来た。ほぼ消えてしまっているが、「望」という文字に見えなくもない。

「そうだ」

 引き出しから護符を取り出す。法術を使っても書いた人物までは辿り着けないが、護符を組み合わせればこの紙がどれくらいの古さかは分かる。馬牙風が印を結び、護符を二枚、紙に押し付けた。

 護符が紙に呼応してどんどん朽ちていく。馬牙風が瞠目した。

「これは」






「結果が出ました」

 朝餉の時間が終わったところで、馬宰相が皆の前で件の紙を見せる。任深持が立ち上がった。

「気になると言っていたことは分かったのか?」
「はい」
「どうだった」

 言われた馬宰相が、手紙の下側を指差して答える。

「こちらの手紙は才国から独立した武将李友望から初代皇帝任春(レン・チュン)に宛てたものであると分かりました」
「なんだと!」

 皆一様に驚愕の表情を見せる。これが本当であれば、各々学んできた歴史が覆るからだ。

「こちらに、望という文字が半分程見受けられます。さらに法術を使い、この紙が二百五十年近く経っていることが分かりました。皇帝宛てに意見を言える人物で望という名前が入っている人物は、李友望ただ一人でした」
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