極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
教授は肯定するように瞼を落とすと、背中を向けそのまま病室を出ていってしまった。しんと静まり返る個室に、小さなため息が虚しく響く。

倒れた私を抱き支えてくれた彼。かすむ視界にうっすらと見えた悲痛な表情が頭をよぎる。

きっと心配しただろう。驚いたに違いない。

病についてはおそらく処置にあたった医師から聞いているはずだ。なぜそんな大事なことを黙っていたのかとショックを受けたかもしれない。

私はずっと彼をだまし続けてきたのだ。この先、どんな顔で会えばいい? どんな言い訳をすれば許してくれる?

そもそも彼は私にもう一度会ってくれるだろうか。

「ちゃんと、さよならを言わなくちゃ……」

たとえ許してもらえなくても、幻滅されていたとしても、出会ってくれてありがとうと伝えたい。

『好き』と言ったのは彼が初めてだが、『さよなら』を言うのも初めてになりそうだ。



翌朝九時、何者かが病室のドアをノックした。

看護師ならば「失礼します」と声をかけてくれる。伏見教授なら返事を待たずさっさと入ってくるだろう。

面会時間にはまだ早いので母ではないだろうし……。心当たりのないまま「どうぞ」と答えた。

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