極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
静かに語り始めた伯父に、少々驚きながら応える。

「俺は自分の行動にこそ後悔しているが、出会わなければよかったなんて思ったことはないよ」

「だが万が一、星奈くんが亡くなっていたら、君は激しく傷ついただろう」

返す言葉が見つからず、沈黙する。

もしも星奈を病室から連れ出した翌日、病が悪化し命を落としていたら。

記憶を失うだけでは済まず、重い後遺症を負わせてしまっていたら。

きっと俺は、自分が許せなくなっていたはずだ。

「難病の患者との交流は、そういうリスクを含む。私は医学的な好奇心でしか君たちを見ていなかった。浅はかだったと思っている」

目的階に着きドアが開く。伯父は謝るように言い置いて、エレベーターを降りた。

先を歩く伯父を追いながら「それでも――」と俺は声をかける。

「星奈に会わなければよかったとは思えない。患者の苦しみや命の尊さは、今の俺に必要なものだ。彼女の存在も」

すべて起こるべくして起こった。選択ミスでさえ、今の自分をかたち作る大切なファクターだ。

「伯父さんと暮らした、あの九カ月間も……俺には必要な時間だった」

「翔琉……」

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