冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした


ハッチの実家で過ごす毎日は、寮よりずっと早く時が進む

“家族”として迎えてくれた木村の家は強面さんが多いんだけど温かくて


気がつけばスッカリ馴染んでいた


土曜日に退院して八日が過ぎ
週明けの月曜日からやっと登校することになった


それも期末考査が始まるという理由でハッチから渋々OKが出た、というのが真相


ハッチはこのまま夏休みに入るのを目論んでいたようだ


身体の痣は日に日に薄くなってきていて、もしかして消えないんじゃないかと不安だったことが嘘のよう


ただ、左腕のギプスと右足首のサポーターは外せないから
見た目は十分怪我人なんだけど、随分と歩幅は広がっていて

武家屋敷の廊下も強面の組員さんの邪魔にならないようになってきた


「なぁ花恋」


「ん?」


「明日からの学校だが」


「行きますよ」


「チッ」


「フフ」


私を学校に行かせたくないのか、この質問はもうテンプレになっている


そこに

コンコンと扉がノックされた


「入れ」


ハッチが扉に向かって声をかけると


「こんばんは」


ハッチの弟の来飛君が入ってきた


「花恋は明日から学校だろ?」


「うん」


「来飛に頼んだから」


「・・・えっと?」


「花恋ちゃん。とりあえず学校ではNightがこれまで同様に護衛につくよ
向日葵さんも一緒だから同じクラスの面子が担当するからね」


「・・・よろしくお願いします」


凡庸な自分に護衛なんて要らない、とは言えない静かな威圧感に諦めて頭を下げる


お父さんによく似た来飛君は二年生なのにNightの総長さんらしい


「頼んだぞ」


「オッケー」



何度も念を押すハッチに同じだけ応える来飛君は「じゃあ明日」と部屋を出て行った


「あ」


向日葵さんに連絡しておかなきゃ
昨日会いに来てくれた時にはハッチが渋っていたから伝えられなかった


「どうした?」


「向日葵さんにメッセージを送ろうと思って」


「・・・あぁ」


とことん過保護なハッチにクスと笑ってスマホを操作した


あれからお父さんには会っていない
向日葵さんを通して何度か連絡をもらったから
メッセージの友達に追加はしたけれど“おはよう”と“おやすみ”の挨拶だけになっている


「花恋」


「ん?」


「テストは第二でも受けられるぞ?」


「保健室?」


「あぁ」


「過保護だよ」


「向日葵も一緒に受ければどうだ?」


手を繋いだまま上目がちなハッチにウッカリ頷いてしまいそうになるのを堪えた


「テストが終われば夏休みでしょ」


「・・・チッ」


不謹慎だけど


すっごく不謹慎だと思うけど


「(可愛い)」


ハッチの頭を撫でずにはいられなかった





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