冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした


背が高くてイケメン、鯨の写真集が好きで
私のブランケットを握りしめて寝るらしいハッチ


週末の度に此処に来てるけれど
他に用事はないのだろうか

最近の私はハッチのことはなんでも知りたいという欲求さえ出てきた


週末は会えない彼女がいる、とか


これだけイケメンなら他の女の子が放っておかない気しかしないのに

抱きしめたり、頭を撫でたり
時折挙動不審な態度もあったり

勘違いしてしまいそうになるほど
ハッチは私を構ってくる

大詰めのファンタジー小説を読みながら時折ハッチを盗み見る


ため息が出るような秀麗な横顔は
見るたびに心臓を酷使してしまう

それでも、何度でも見たいのだから
もうこれは重症化の兆し


「どうした?」


そんな私はやっぱりハッチに気付かれた


「・・・ん、と。」


「人外も飽きてきただろ」


「という訳ではありません」


「なんだよ」


「ハッチは毎週末暇なのかと心配してまして」


結局のところ自分のことを煙に巻いて
話をすり替える作戦にでる私はとことん臆病者


「ククッ、それは花恋も同じだろう?
わざわざ週末の図書館に入り浸っているんだから」


「入り浸るって、嫌な表現ですね」


「現に土曜も日曜も昼食以外は此処に居るんだ
入り浸る以外の表現があるのか?」


「ん・・・そう言われてしまうと
反論できませんね」


「俺は、花恋に会いたいから来てる」


「・・・っ」


・・・あぁもう


ハッチは狡い


会いたいと思っているのは私もなのに
こんな時『私もです』なんて可愛らしげのある言葉を選べないし


週末わざわざ私に会いに来る訳を
どうして、とも聞けない

だって、実はな・・・なんて彼女の話でも聞かされたら間違いなく落ち込む

だから、曖昧な境界線は死守したい


「てか、此処が使えない週末があれば何処に行くんだ?」


「・・・ん。考えたこともなかったですが
それまでに本を借りて自室で大人しく読むと思います」


「他の選択肢は?」


「えっと、他は知らないので」


「中央図書館とか」


「行ったことありません」


「ま、俺もないけど」


「・・・?鯨が好きなのに?」


「此処以外では読まない」


「それじゃあ私のことも言えませんね」


「いや、俺と花恋は違うだろうが」


「まぁ、気にならないことはないですよ
でも、読みたい本の半分にも到達していないので
三年間でも制覇できないと思っています」


「じゃあ今度一緒に偵察に行ってみるか?」


初めてのお誘いは唐突で
その自然な流れに言葉を詰まらせた

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