冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした


「明るいうちに出かけて
明るいうちに帰るのよ?」


「その予定です」


「ま、大丈夫か。繁華街はNightもいるし
滅多なことはないはずだからね」


・・・ナイト?


そう言って微笑んだ向日葵さんに
胸がトクッと跳ねる


美人を見たらドキドキするのかもと思ったけど
ハッチと一緒に居て騒がしい胸は
向日葵さんのとは全然違う

どちらも騒がしいことに違いはないけれど
決定的な違いに気づいてしまった


「てか、花恋。良いこと思いついたわ」


「はい?」


「良かったらなんだけどね
着なくなった私の服、貰ってくれない?」


「向日葵さんの服ですか?」


「えっと、お下がりみたいなもの?」


疑問符が並ぶ可笑しさに二人で笑いながら
望みの家ではお下がりが定番だったと思い出した


「向日葵さんが着ないのであれば
私は喜んで頂戴しますよ」


「そう?良かった
ちょうど良いサイズが沢山あるはず
週末までに学校に持ってくるね」


「ありがとうございます」


向日葵さんと私の身長差は十センチ程
お兄さんと二人兄妹と聞いたから
ここは遠慮なく頂くことにする


「お下がりっていっても
私も貰いものばかりだから
気を使わなくて良いからね」


「はい」


私のことを思い遣ってくれる
向日葵さんは

やっぱり内面も美人だ





━━━━━━翌日



放課後、向日葵さんに手を引かれて
教職員用の駐車場へ向かうと
向日葵さんのお兄さんが特大の紙袋五つ分のお下がりと待っていた


「・・・これ。全部ですか?」


「遠慮しないでね。これでも減したんだからね
朝陽が文句ばっかり言うんだからぁ」


頬を膨らませて見上げている先で
向日葵さんのお兄さんが眉を下げている


「妹がごめんね。押し付けるみたいで申し訳ないんだけど
受け取ってくれると家としてもありがたいんだ」


「・・・あ、りがとう。ございます」


ハッチもイケメンだと思っていたけれど
向日葵さん兄妹はそれと遜色がない


特にお兄さんは瞳の色が特徴的で異国の血を感じるハッチとは違うイケメン

お兄さんと一緒に居る向日葵さんは
可愛らしさが倍増するから本当に仲の良い兄妹なんだろう


大きな車を運転するお兄さんは
わざわざ学生寮の前まで送ってくれて


「お詫び」と部屋までお下がりを運んでくれた


そして帰り際には


「花恋ちゃん。妹と仲良くしてくれてありがとう」


キラキラと可愛い水時計とそれによく似た腕時計をプレゼントしてくれた

貰うばかりで返すものがないと恐縮する私に


「初めての友達とのお揃いなの」


向日葵さんがそう言って色違いの腕時計を見せてくれたから
沢山お礼を言って甘えることにした


「花恋、じゃまた明日ね」


「はい。向日葵さんお兄さんありがとうございました
また明日学校で」


車が見えなくなるまで手を振って
寮に入ると中で待っていた寮生に囲まれた


とはいうものの
みんなSクラスだから向日葵さんのことを知る人も居なくて

当たり障りのない説明だけで終わった





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