冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした
お出かけに向けて



ハッチと約束をした途端

時間軸を操作されたかと心配するほど
時計の針が動かなくなった


「花恋、なんか変じゃない?」


昼休みの学食帰りは中庭の花壇の水やりをするのが日課
それに付き合うと着いてきてくれる向日葵さんはベンチに座りながら痛いところを突いてきた


「んと、まぁ、なんというか、その」


「ふふ、なにそれ」


でも、なんというか。言いたい


「あの・・・」


「ん?」


「今度の週末出掛けることになったんです」


「へぇ。遂に下界デビューね
それでそれで?」


ベンチに腰掛けているのに
ジョウロで水やりをする私に合わせて身体を捩るから
いつもはクールな向日葵さんからは想像できない可愛さだ


「向日葵さんの言う“下界デビュー”も強ち間違ってはいないんです
東の街のことはほぼ知らないので」


「・・・益々楽しいじゃない」


「中央図書館に行くのがメインですけど」


「え、図書館なの?」


「東白学園の図書館以外入ったことがないので」


「ん・・・まぁ、初回は仕方ないわね
で、誰と出掛けるの?」


「んと・・・図書館友達です」


「ふーん」


食い付き気味に聞いてきたとは思えない薄い反応に思えたけれど顔を上げた瞬間


「てことは!
図書館友達との図書館デートね」


何故か満面の笑みだった


「・・・デートっ!!」


「え、違うの?」


「違いますよ。ハッチは友達なので」


「なに、犬みたいな名前ね」


「あ・・・」
確かハッチにも同じことを言われた


「犬ではなくて人外みたいな人です」


「人外って本の読み過ぎでしょうが」


「面目ない」


「でも、男なんでしょ?」


「・・・はい」何故分かるんだろう


「なんで分かったかって?
女の子と行くなら挙動不審にはならないでしょ?
じゃあ益々デートじゃない」


「違いますよ」


「楽しみねっ、何を着ていくか決めた?」


こちらの話はちっとも聞いていない


「・・・決めて、ないですね」


「ダメじゃない
先ずは可愛い服で視線を奪って
それから・・・」


「向日葵さん。落ち着いてください」


このまま暴走したら大変なことになる


「あ、あぁ、ごめんね」


意識をこちらに戻してくれた向日葵さんは


「服を買いに行きたいってことなら
私、付き合うわよ?行きつけのお店があるし」


「今のところ大丈夫ですけど
どうしてもという時はよろしくお願いします」


「あ〜遂に花恋も初デートに行くのかぁ」


向日葵さんの意識は一瞬で戻るらしい


「てか、街に出たらその犬と離れないようにね」


「向日葵さん。犬ではありませんよ
街には何かあるんですか?」


「お願い!言いやすいから“犬”にさせて
綿飴みたいな花恋が街に出るとか
誘拐される気しかしないんだから」


「誘拐」


どうやら街は怖いところらしい

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