冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした



車に乗ったままシャッターを潜った先は


時代をトリップしたような景色が広がっていた


明美先生がよく見ていた時代劇に出てくるような日本家屋


手入れの行き届いた広いお庭


「若っ」
「シッ」


ハッチの乗る側のドアが開かれると同時に
なんだか短いやり取りが聞こえたけど


よく分からなくてスルー


先に降りたハッチは助手席まで回ってドアを開けてくれた


「ほら」


差し出された手を、とりあえず掴む


引かれた勢いのまま降りると沢山の視線が集まっていることに息を呑んだ


「・・・っ」


どうして良いのか不安になってハッチを見上げる


そんな私を一瞬で腕の中に閉じ込めたハッチは


「見せもんじゃねぇぞ」


初めて聞く低い声で唸った


・・・・・・というか


やっぱり・・・人外、とか?


「変なこと考えてんじゃねぇだろうな」


図星に肩が跳ねる



今、絶対脳内を読んだよね
だって腕の中に閉じこめられたままだよ


これを人外と呼ばずにいられようか


・・・内緒だけど


独り言ちるうちに


「土産」


どうやら後部座席のケーキは運び出されたようで


「行くか」


ハッチの腕の中から解放された時には
大勢?の男の人は居なくなっていた


予想だけど・・・
ハッチは武家屋敷の若様で
きっとお付きの人が沢山いるのだろう


で・・・


現実逃避・・・じゃなくて
興味を持った現代でチンチクリンの私と出会ってしまった


・・・というか


食べない、よね?


手を繋いで歩くハッチをコッソリ盗み見・・・バレた


「いいか?」


「はいっ」


「俺は今を生きる現代人、言ってみろ」


「ハッチは武家屋敷の人外若様」


「テメェ」


「キャァァァ」


繋いだ手を解いて逃げようと試みたのに
解けないばかりか抱き上げられてしまった

それも、女の子の憧れ“お姫様抱っこ”ではなくて小さな子を抱き上げるような縦抱き

その不安定さからハッチの首に手を回して抱きつくしかなくて焦る


「あああああああ、あのっ」


「ん?」


「じ、ぶんで歩けますっ」


「くだらねぇこと妄想してる暇を無くしてる」


「対処法として完璧です」


「ブッハハハハハハ」


そんなこんなで気付けば
大きな玄関前に到着していた









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