冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした
side 郡朝陽
向日葵の部屋の扉を閉めたところで変に力の入っていた肩に気づく
タブレットを操作して位置情報を確認
我が友の現在地に眉が下がった
【東白学園 図書館】
赤いピンの立つその場所を眺めながら深いため息を吐いた
・・・
━━━四月
「朝陽ぃぃぃ」
無事三年生に進級した始業式
お昼に帰ってきた妹はソファに座っていた俺に抱きついた
「どうした?」
いつもより声のトーンを上げて様子を伺ってみると、俺の胸にグリグリとオデコを擦った妹は
「友達ができたのっ」
泣きそうな笑顔を見せた
実は、向日葵自ら教室で話しかけた子については既に調査済み
向日葵の思いを聞きたくて耳を傾けた
「どんな子?」
「あのねっ」
妹の初めての友達は青山花恋ちゃん
二年まではSクラスだった可愛い子らしい
可愛い子でも白夜会にとっての枷になるなら例え向日葵の友達でも排除の対象になる
「良かったな」
「うんっ」
妹が母に報告している間に【青山花恋】を深掘りする
と、ある記述で指が止まった
妹には高校最後の一年間を楽しく過ごして欲しいから
友達もNightの警護対象に入れる連絡を入れ
お下がりを渡すタイミングで
向日葵には内緒だが細工を施した置き時計と腕時計を揃いにして渡した
この時は妹の友達としての関わりだと思っていたのに
日々、妹から聞かされる花恋ちゃんの話と
生まれる前からの友達、木村永飛から聞かされる話がいつしか繋がった
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『実はな、返せって言われた図書館の鍵、スペアを作ってたんだけど
この前久しぶりに入ってみたらやっぱ居心地良かったわ』
『花恋ってね、休日に図書館を使う為のマスターキーを貰ってるんだって』
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『花恋ってね特待生だけが入れる東白の敷地内にある学生寮に住んでるの』
『東白に学生寮があるの知ってるか?』
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『花恋に図書館で会う友達が出来たんだって
名前、忘れたけど“犬”だったわ』
『俺な、あだ名で呼ばれたの生まれて初めてかもしれねぇ』
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『中央図書館って本借りるなら何かいるのか?』
『花恋ってば東白に入学してから一度も外出したことがないのよ!
それがようやく出掛けるらしいの
それもデートよ。図書館デート』
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『花恋が元気がないの。それも犬の所為で!
彼女が居る癖に私の花恋を誑かすなんて
駄犬は駆除よ!駆除!』
『“またな”を何度言っても“またね”が返ってこないのは
次がないってことなのか?』
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“またね”を待っていた永飛の話を聞いた夜
東の街はある噂で溢れていた
名前を呼ぶどころか触れることすらできない冷酷な野獣が
女と手を繋いで笑っていた
・・・
永飛の初恋を応援してやりたいから
どちらも幸せになるような最善を考えたい
ただ・・・
掛け違えたボタンを修正するのは
他人が介入せず
当人同士が歩み寄るのが一番だと思っている
なぁ、永飛
誤解を招いたことすら気づいてないのは
結構キツイな
side out