冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした



━━━━━━月曜日



いつもの登校時間より早く寮を出て、予め連絡をした理事長室を訪ねた


「こうやって青山さんが此処へ来るのは
一年間でも片手の指で余りますね」


紅茶を飲みながら向かい合って座る理事長は

実は無類の本好き


図書館のマスターキーを預かる時に
『時折本の話を聞かせてくださいね』なんて言われていたのに

会うタイミングを逃してばかりで申し訳ない


「すみません」


「謝らないでください
青山さんはSクラスだったのだから
お喋りしている暇はありませんでしたね」


優しい物腰に紅茶の良い香りが加わって朝から贅沢な気分になる


「で、お話とは」


「あ、あの・・・
就活のエントリーに必要になるから
携帯電話を持つべきだと
担任の藤山先生からアドバイスをいただきました」


「あぁそうですね。それは確かに正論ですね」


・・・正論


「青山さんはそれで後見人を引き継いだ私のところにやってきた」


「はい」


「藤山先生も身上書を確認すれば
青山さんを慌てさせることもなかったのに」


「・・・?」


「あ、えっと。言葉が足りませんね
私が後見人なのだから先ずは私に話をして欲しかったという意味です」


「・・・はぁ」益々分からない


「未成年者が携帯電話を契約するのに親権者の同意が必要なことは
就職担当の教員なら知っているはずなんです」


「そうなんですね。理解できました」


「なので、青山さんの携帯電話は契約しません」


「え?」


話を総合して同意書にサインしてもらえると思っただけに驚愕に目を開いた


「変に取らないでくださいね
東白学園には特待生へ貸し出す為の携帯電話があります
もちろんその都度番号変更をしますから不都合はありません
青山さんは卒業までそれを使ってください」


「良いんですか?」


「入学時にもこの話をしましたが覚えてないですか?」


「・・・すみません」


「あの時は連絡事項が多すぎて
頭に残らなかったのかもしれませんね」


理事長の言葉に入学、入寮、特待生に関わる全ての説明を受けた日のことを思い出した


「・・・はい」


「では今日中に手配しておきますから
明日の放課後、此処に取りに来てください」


「ありがとうございます」


「さて、青山さんの話は終わったから
少しだけ私の話に付き合ってくださいね」


そう言って始まった最近読んだという本の話に引き込まれて


始業時間五分前まで話しが弾み
予鈴と同時に理事長室を飛び出した





< 41 / 113 >

この作品をシェア

pagetop