冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした



寮生と間宮さん
向日葵さんが友達に加わって

スマホひとつで繋がる世界


手に入れた最新式のスマホは、向日葵さんの教えてくれた通り
パソコンと遜色のない素晴らしい物だった




━━━週末金曜日




[放課後理事長室にお越しください]



いつものように昇降口で向日葵さんに手を振ったあと、理事長室のある事務棟へ向かった


「青山さん」


「あ、白井先生」


「もしかして理事長室?」


「はい。白井先生もですか?」


「正解。一緒に行こう」


途中白井先生と合流して着いた、火曜日以来の理事長室。ソファ前のテーブルには書類が並んでいた


「今日お越しいただいたのは」


七月一日に出る求人票とその企業情報、それを踏まえた上での理事長の提案だった


「ご存知でしたか?Dクラスに移ったけれど、大学受験できない訳ではありません」


「・・・」知らなかった


「これは提案ですが。東白学園の事務職員の採用試験を受けてみませんか?」


「この学園、ですか?」


「そうです。此処で働きながら
国公立大学の夜間主へ通うこともできるんです」


理事長からの提案は大学進学を含む魅力的なものだった


「青山さんの学力であれば推薦枠にも入りますし
お給料と奨学金を合わせれば学費や生活費も問題ないと思うんです
なにより・・・
今は私の娘という意味で言えば
花恋ちゃんの可能性を伸ばしてあげたいという親心があります」


「あの・・・えっと」


「突然だったから驚かせましたよね」


「正直考えたこともなかったので」

 
「本当はDクラスに移る段階でお話すべきだったんですが
あの時はとても頑なだったので」


眉を下げた理事長を見て、クラス変更を申し出た時を思い出した


決めたことは頑として譲らないのは私の欠点


『見た目に反して頑固よねぇ』
何度もそう言われてきたから自覚はある


だからこそ理事長は間を開けて提案してくれたんだと思った


「ありがとう、ございます
もう一度よく考えてみます」


即決できない慎重さも欠点に入るのかもしれない


ひと通りの説明を受け終わると、また三人で紅茶を飲みながら雑談で盛り上がる


「そういえば家内が拗ねてるんです」


理事長が頭を掻きながら肩をすくめた


「・・・拗ねる、とは?」
食い気味に聞いてみる

それに答えたのは白井先生だった


「それはね父と僕ばかりが花恋ちゃんとお茶をして
母を仲間はずれにしているから」


「・・・っ、ごめんなさいっ」


入学時に理事長は望みの家から後見人を引き受けてくれた
その時に一度、理事長家族と食事に行ったきり
日々の勉強で手一杯になり、奥様への連絡を疎かにしていたのだ


「謝らなくて良いんですよ
できれば早いうち、予定のない週末に会ってやってくださいませんか?」


「もちろんです」


「これでようやく家内に良い報告ができます」


一見気難しそうな雰囲気を持っている理事長も、話せば真逆の人柄に驚かされる


私の周りは素敵な大人ばかりだ




























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