冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした



「・・・以上です」


話し終えると近藤はもう一度静かに頭を下げた


「で?」


花恋の生い立ちに近藤が加わっただけの話
それを態々呼び出したのには理由があるはず


続きを早く言えと視線を外さない俺に
近藤は肩をすくめてみせた


「木村の若とお付き合いしていると花恋から聞きました」


花恋が自ら話したことにウッカリ口元が緩みそうになる

それを堪えて
「あぁ、それで?」と次を促す


「ギプスが外れるまで木村組でお世話になることも」


回りくどい言い回しに苛立ちが生まれた


「だからなんだ」


「まぁまぁ、永飛君、そうイキリ立たずに」


嫌な空気を解いたのは朝陽の親父
“永飛君”と呼ばれたからには

今日は友人の父への対応で良いのだろう


「花恋には東白の寮を出て貰おうと思っています」


親子名乗りをした途端に囲い込むつもりなのか


「就職希望と聞きましたが、花恋にその気があれば大学進学に切り替えても間に合うかと」


「なぁ、近藤。回りくどいのは性に合わねぇ
含んだ言い方せずに真っ直ぐこいよ」


だからなんだと何度も突っ込みたい口振りが続く様子に苛立ちを覚えて遮った


それに一瞬揺れたかに見えた近藤は一度深く頭を下げた


「木村の若との付き合いは始まったばかり
まだ気持ちが追いついていないのなら・・・」


「近藤」


言いたいことは想像がついていた
確かに俺と付き合わなければ、この先花恋の世界は無限に広がっていく


その世界を狭めても良いと思っている俺は、とことん小さい男なのだろう


だが、手離すつもりがないのだから
ポッと出の父親如きに文句を言われるつもりは無い


「親子名乗りをした途端に父親気取りか」


口にした苛立ちに身体が熱を帯びた途端


「・・・永飛君」
「若っ」


向かいの二人が肩を揺らした


「付き合ったばかりだが、花恋を手離してはやれねぇぞ
反対すると言うなら今この場から敵とみなす」


握りしめた拳が怒りに震える


「永飛君、和哉は離れていた分だけ、できる限り花恋ちゃんを甘やかせたいだけ
ちょっとウザいのは仕方ないけど
花恋ちゃんを想えばこそなんだ
ほら、和哉も。押し付けは花恋ちゃんに嫌われる」


それをいつもの柔らかな口調で制したのは朝陽の親父だった


「二人とも想い合って付き合うようになったんだ
だから、見守ってあげて欲しい」


この部屋に入ってから気配を感じられず忘れていたが
斜め後ろに居た朝陽が静かに頭を下げたのが見えた


「木村の若、申し訳ない
自分は向こう側で暮らしてきた花恋を引き込む勇気を持たずに来たので」


「籍も入れて引き込むのに矛盾だらけだな」


「・・・」


「大事に大事に見守ってきた娘が
俺如きに取られたのが気に入らねぇって正直に言えよ」


「・・・それ、は」


一見控えめに見える和哉の瞳には
俺を値踏みするような色が見てとれた







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