ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする



(……まぁ、その部長とかいう奴も、さよちゃんのことが気になっているとわしは思うがのぉ……いや、その男がどんな奴かは知らんがもし変な奴だったら、わしの大事なさよちゃんの為にも懲らしめなきゃいけんが──…しかし、営業部長ねぇ…)

部長という男がどんな奴なのか、トメがあれこれと想像を膨らませていた時、続けて桜葉がこんな言葉を紡んできた。

「それに私はしばらく……恋とか、そういうのはいいかなって」

彼女の中の何がそうさせているのか、桜葉はどこか憂いを帯びた表情を滲ませている。

「よしっ!!
さよちゃん、おまえさんのスマホをちょっと貸してみ」

「えっ?…あ、はい」

突然、ヌっと手を出してきたトメの行動に桜葉は考える間もなくスマホを差し出してしまう。

「なんじゃ、とらぞうの写真を送るつもりだったのか?……文章はこれで良いのかい?」

「えっと…は、い?」

そう言うと、トメは躊躇いもせずそのライ○の送信ボタンをピッと押してしまったのだ。
慌てた桜葉は思わず「あっ…」と声をあげてしまう。

「ちょ、ト、トメさんっ?!
何を勝手に送っちゃってるんですか〜!」

「さよちゃんは色々と考え過ぎなんだ! 若いもん今、恋しなくていつするんじゃ!
気になる奴がおったらどんどんアプローチしていかなきゃ、あっという間に年老いてしまうぞ。
それに今までどんな恋をしてきたかはわからんが、過去を振り返ってばかりじゃ何も始まらん。……さよちゃんは充分、魅力的で良い子なんだからな」

少し顔を赤くして力説したトメはそっぽを向きながら桜葉にスマホを返す。
暫し二人の間には無言の空気が流れたがその空気は桜葉の笑い声で吹き飛んでしまった。

「ハハッ…! もう〜、トメさんが変なこと言うから一瞬固まっちゃったじゃない。
──でも…ありがと、トメさん。
なんか、トメさんに言われて少し気がほぐれたかも。やっぱり……」

「ん? やっぱり…なんじゃ?」

「あ…う、ううんっ…なんでもないよ、やっぱりトメさんは頼りになるなって思って」

「そうじゃろ、そうじゃろっ!
さよちゃんも早くその部長とか言う男にアタックするんじゃぞ!」

「もう〜、だからそんなんじゃ……」

突如として桜葉の言葉が詰まり、笑顔が薄まっていく。

(──そんなんじゃ……ない?
だって…院瀬見さんにはもう婚約者が、いるんだし……)

ピコンッ

急に落ちてしまった暗い気分がそのライ○通知でまた一気に上昇し始めていく。
何とも最近の桜葉の感情は目まぐるしく忙しい。

“とらぞうの写真、ブサ可愛くてとても癒やされました。
鳴宮さん…()()()()()

それは岳からの返信の言葉だった。
返信が返ってきただけでこんなにも嬉しい気持ちになってしまうとは──桜葉の気持ちは本人も気付かないうちに、既に岳へと動き始めていた。




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