ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「はいっ、よく似合ってます。
……でも良かったぁ。もしかしたらトメさん、またギックリ腰でもしちゃってるんじゃないかって心配してたんですよ」

「あぁ、それは心配させてしまってすまんのぉ。腰のほうはもう大丈夫じゃ!
あの時、優しくさよちゃんが介抱してくれたからね」

そもそもトメと桜葉がこんなに仲良くなれたのは、玄関先でトメが(うずくま)っていたのを仕事先から帰ってきた桜葉がたまたま見つけ、部屋まで連れて行って介抱してあげたのがきっかけ。

「……いえ、私は…全然優しくなんか」

“優しい” というワードに、なぜか過剰な反応を見せる桜葉の表情は少し沈んでいるようにも見えた。
今まで就いていた仕事の影響なのか、人の心情を読み取ることに長けていたトメは、桜葉のおかしな様子を察して慌てて話題を変えようとする。

「それよりさよちゃん、さっきからスマホを見ては溜め息ばかりついて……何か心配事でもあるのかい?」

「あ、いえ、心配事っていうほどのことではないんですが……あの、最近よくお話しする友人が出来まして、昨日お互い初めてライ○交換をしたんですけど。……昨日の今日ですぐメッセージなんて送ってしまっても良いものなのか……ちょっと躊躇しちゃっていて」

いざ聞いてみるとそれは、トメにしてみたら本当にたいした事のない小さな悩み。
しかし相手のことを考えて慎重に行動してしまう桜葉にとっては恐らく大事なことなのだろう。
トメは少し意地悪な聞き方をする。

「なんじゃ、相手はさよちゃんの好いとる男かのぉ?」

桜葉はトメの言葉に一瞬キョトンとした顔を見せた。

(好いとる……って……)

言葉の意味を理解するのに少し時間がかかる──が、その言葉が自分の中へと浸透していった途端、桜葉の顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていったのだ。

「ち、違うよ、トメさん!
そ、そりゃ確かに男性ではあるけども彼はそういう人というわけでは……そ、そもそも本社のエリート営業部長が私とだなんて全く釣り合うはずないというか、や、やだな〜トメさんっ!」

両腕を前に突き出しながら、残像が残るほど素早く手のひらを横に動かし否定する桜葉の仕草は何とも可愛らしい。
彼女は自分のことを釣り合わない人間だと言っているが、優しくて相手の気持ちに寄り添い時折可愛らしい仕草を見せる……そんな彼女を知ったらいつの間にか桜葉のことを好きになってしまう男達は少なくはないだろう。

(──ん? ハスミ不動産の営業部長って……)

少し考え事の域に入ろうとしていたトメの様子を察してか、すかさず桜葉が「トメさん、どうかした?」と聞いてきたのでトメは一旦その域に入ることを止めた。





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