ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする




──────
──……


「見てっ、さよ! 康太(こうた)先生からプロポーズされちゃったっ」

学生の頃からよく通っていた小さな喫茶店──

桜葉達が住む田舎町では唯一の憩いの場となるこの場所に、桜葉は親友の水樹(みずき)から突然の呼び出しを受けたのである。
彼女の名は、尾木 水樹(おぎ みずき)── 桜葉とは中学、高校と同じ学校で何でも話せる友人の一人だ。


シロップとミルクを入れたアイスコーヒーをストローで掻き混ぜていた時、水樹が薬指に光る指輪を掲げ満面の笑顔でそのように報告をしてきたのだ。


(── 結、婚……)

水樹からの結婚報告に桜葉の顔が一瞬強張ったようにも見えたが、直ぐ様笑顔の仮面を貼り直そうとする。

「おめでとう、水樹っ。
でも先生って呼ぶのはさすがに終わりにしないとね。……もう、二人は結婚するんだから」

「あ〜、そうだよね。── でも、なんかあの康太先生と結婚するなんてまだ夢のような感じでさ。こんな田舎町で唯一のアイドル先生だったんだもんっ。
だから、もしかしたらさぁ…さよも密かに先生のこと好きだった、とか?」

「まさか〜っ! そんなわけないよ。それに仮にそうだったとしても先生が好きなのは水樹なんだから、そこは喜ぶところじゃない」

精一杯の虚勢を張ることで己を鼓舞しようとする桜葉は、自分の気持ちが水樹に悟られる前に早々に話題を切り替えようとする。

「それよりも、水樹の体調はどうなの? あれからリハビリは順調に…いってる?」

「うん、まぁ、リハビリはなかなかにきついけど、それも少しづつ慣れてきた感じかな。先生も色々とサポートしてくれるし──……それにこんなこと言うのは不謹慎かもしれないけど、あの事故があったからこそ私、先生と結婚できたんだと思ってるんだ」

「……そっか、」

少し複雑そうな表情を覗かせた桜葉はアイスコーヒーを啜りながらチラッと水樹の方へと視線を移す。

そんな水樹は今、車椅子の生活を余儀なくされている。

その原因となる事故を起こしたのは康太先生なのだ。


──しかし根本的な原因を作ってしまったのは、きっと自分のせいなのだと桜葉は思っていた。

そしてずっと、あの日を悔やんでいる。




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