ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


赤川 康太(あかがわ こうた)


彼は桜葉と水樹が通っていた高校の教師である。
そして康太先生は桜葉が初めて恋をした人……────


────…………


「今年も綺麗に咲いたなぁ」


コンビニは一つだけ、周りは田んぼや雑木林がほとんど、そして人口の少ないこんな田舎町でもたった一つだけ誇れるものがある。
通う高校へと続くこの桜並木は春になると、一斉にその可愛らしい姿を満開に咲かせ訪れる人を魅了させてくれるのだ。

そんな桜が咲き誇る春、高校二年生になった桜葉達のクラスでは、赴任したばかりの若い先生が女子生徒達の話題のタネとなっていた。


「ぶっちゃけさぁ、桜葉は康太先生のことどう思う?」

昼休み、窓際の席でこっそり特売品のチラシを見つめながら家計簿をつけていた桜葉は、その突然の問いかけによって一気に集中力が削がれてしまった。

「赤川先生…のこと?」

「そうそう、赤川康太先生っ! 私はぶっちゃけ格好いいと思うわけぇ〜。長身でがっしりした体格なのに、あの童顔であどけない弱々しい笑顔……ギャップ萌えプラス母性本能がくすぐられるって感じ、堪らないなぁ〜」

そう話しながら桜葉の前席の椅子に足を組み座る女子生徒は、高良 翠(たから みどり)──桜葉の友人の一人だ。
茶髪をポニーテール風に仕上げ、いい具合に焼けた素肌には派手目のメイクを施してある。
この田舎町ではなかなか見かけないイケイケ系のコギャル…のように見えるが、中身は意外と純情な乙女なのだ。

(どう思うって聞かれても……特に考えたことなかったしな)

「翠〜、桜葉に恋話(こいばな)したって無理だよ〜。……だって、アオハルの真っ只中なのに今時、昼休みに家計簿つける女子高生いる?」

「…そっか〜、まぁ確かに! 聞いた私がどうかしてたわぁ。じゃあさ、ぶっちゃけ水樹は康太先生のことどう思ってる?」

桜葉の後席にいる水樹がスッと会話に入ってきたタイミングで翠が同じ質問をぶつけてきたのである。




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