ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする





『遅れた代わりとして、放課後はこのゴミを焼却炉まで運んでくださいっ』


美化委員の集合場所まで急いで駆けつけたにも関わらず結局、花壇の手入れはほとんど終わっており、美化委員長に言われたこの一言で桜葉は放課後一人、再び花壇前に来ているのだ。

呆然と立ち尽くす桜葉の足元には、不要となった土やむしった雑草などが入った大きなゴミ袋が五つも転がっている。

「……委員長〜、見るからに重たそうなゴミ袋がこんなにあるだなんて聞いてないよぉ。それにこれ、全部運んでたらスーパーの特売時間に間に合わなくなっちゃう」

ゴミを運ぶのは、自分が約束の時間を忘れていたせいなのでそれは仕方のないこと。
けれど、今日に限ってどうしても手に入れたい特売品がある桜葉にとっては、放課後に残ってやるこの作業は何とも言えない拷問であった。

「ハァ〜……」

半ば諦め混じりの溜め息を漏らし終えた桜葉は、覚悟を決め気合いを入れるかのように長袖のシャツを腕捲りし始める。

「不満を言っててもしょうがないっ、取りあえずこの荷物を運ばなければ帰れないわけだし」

目の前に転がっている大きなゴミ袋を二つ手に取ると、自分が思うよりもかなりずっしりとした重量感が両腕に伝わってきた。

(重っ! 何これっ)

最初は二つずつ運んでいこうかと考えていたその甘い考えは直ぐ様、断念に至ってしまう。
小柄な桜葉には到底無理な所業であった。

仕方なく、ゴミ袋を一つずつ焼却炉のある裏庭まで運ぼうと息を何度か整えながらも歩み進める桜葉。

(……焼却炉って、ハァハァ…こんなに、ハァ…遠かったっけ?!)

焼却炉のある裏庭は木々に囲まれ校舎とは少し離れた所に存在する。
用事のない者は滅多に訪れることはなく比較的静かな場所で、桜葉自身もこの学校に入学してからはまだ二回程しか訪れたことはなかった。

ゴミ袋一つ運んだだけで既に汗まみれ状態に陥っていた桜葉だが、ようやく焼却炉が視界に入ってくると少しばかりホッと胸を……


…撫で下ろす間もない出来事が起こったのである──




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