ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

14.先生との再会〈桜葉の過去編〉




「懐かしいな、あの時は鳴宮さんに見られてしまってかなり焦ったのを覚えてるよ」

康太先生は夜空を眺めながら少し照れくさそうにそう呟く。
そんな先生の言葉で当時の事を思い出していた桜葉は今日、康太先生に告白しようと決意しているのだ。





ファミリーレストランで働き始めて約四ヶ月──夜シフトの仕事を終え従業員出口から外へ出るとそこには、壁に寄りかかりながらスマホをいじる康太先生が立っている。

「お疲れ様」

「先生っ…お疲れ様です」

いつものやり取りを終えると暗い夜道の中、二人は並んでゆっくりと歩き始めた。
先生への恋心を胸に閉まったまま高校を卒業した桜葉と康太先生が四ヶ月経った今、なぜこんな状況に至っているのか──それは一ヶ月前に偶然起きた再会に遡る。

ファミリーレストランでの桜葉の担当は調理……だったのだが、一ヶ月前に一度だけ急遽ホールでのレジをお願いされたことがあった──

────


『ごめんっ、誰かレジの方お願いできるかな!? 今フロアは皆、手が離せなくて……あ、鳴宮さん確かレジの研修はもう受けてたよねっ?』

調理場で料理の盛り付けをしていた桜葉の姿が偶然視界に入ったのか、名指しで店長が声をかけてきた。

『はい、一応一通りは教えてもらったんですけど、レジはまだ入ったことなくて…』

『大丈夫っ、何事も実践、実践だよ! とりあえず今、お客様がレジで待ってるから入ってやってみてくれる』

『は、はい』

(困った…教えてもらったのはだいぶ前だし、所々しか覚えてないんだけど)

渋々といった表情を浮かべつつも、お客が待っていると聞いてしまっては桜葉も急いでレジの方へ向かわなければならない。

『お、お待たせ致しましたっ。…えっと……エビグラタンとドリンクバー、それにサラダ──』

『…ん、鳴宮、さん…?』

(──え…)

まさか自分の名が呼ばれるとは思いもせず一瞬固まってしまう桜葉ではあったが、その柔らかく優しげな声色はどこか聞き覚えがある。

(…嘘、でしょ…この声って……)

頭が真っ白になりながらもその人物を確認しようと慌てて顔を上げた桜葉の胸の高鳴りは最高潮に達していた。



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