ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


『あ、赤川先生っ?…え、どうして』

まさかこんな場所で先生に逢えるとは思ってもいなかった桜葉は、垂れた大きな目を更に見開かせて驚きを隠せないでいる。
それは康太先生も同じだった。
財布に手を伸ばしたまま固まり桜葉を見つめている。

『……そうか、君はここに就職したんでしたね。三年の時は担任じゃなかったからすぐにはわからなかった。
…どう? ここでの仕事は慣れましたか?』

偶然とはいえ突然現れた初恋の相手に内心、動揺しまくりだったが何とかそれを隠しつつ桜葉は冷静に言葉を返そうとする。

『は、はい…何とか慣れてきた所です。先生はここで夕飯、とかですか?』

『そう、独り身なもんでここは仕事終わりによく立ち寄る場所なんです』

『そう、だったんですね…』

(──えっ…嘘でしょっ? 今までも先生が来ていたなんて全然知らなかった……ずっと調理場にいたから全く気づけていなかったんだ)

もしフロア担当だったらもっと早く康太先生と再会していたかもしれないのに──…いや、でも調理担当を希望したのはそもそも桜葉の方なのだ、今更後悔しても時既に遅し。

だが、それでも偶然が重なったとはいえ再会することになった二人は、この日を境に何度か店で顔を合わせるようになる。
康太先生も結構な頻度で店へ通うようになり、店内に入ると調理場が見えるカウンターに顔を伸ばし桜葉を見つけてはお互い手を降るようにまでなっていったのだった。

そんな状態が三週間ほど続いた頃、桜葉が仕事を終え従業員用出入口から出ると、康太先生が外で壁に寄りかかりながら彼女を待っていてくれたのである。

『え…先生っ?!』

『お疲れ様』

『あ、え、はい…お疲れ、様です』

(な、なんで先生がここにいるの?……先生はさっき、もう食べ終わって帰ったはずじゃ)

『鳴宮さんはいつもこんな遅い時間に帰ってるの?』

どうしてこんな状況になっているのか考える間もなく、康太先生は立て続けに話しを桜葉に振ってくる。

『はい…あ、でも、まだここら辺は車通りも人通りも多いほうですし特に怖いってことはないんです』

『……いや、それでもこれからバスに乗って帰る所はここよりも田舎で人寂しいところだし、女の子一人では危ないですから…鳴宮さんさえ嫌でなければ車で送りますよ』




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