ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

15.辛い別れ〈桜葉の過去編〉




──…… それから、一年後



桜葉が二十歳(ハタチ)になったお祝いに康太先生は、少し離れたところの繁華街にあるレストランディナーを予約してくれた。


「せっかくの誕生日なのに夜しか時間取れなくてごめんな、桜葉」

「そんな、平日だから仕方ないです。…それでも康太先生とこうやって食事ができるので私は嬉しいですっ。
──けど先生……少し、疲れていません?」

「ん、どうして?」

「いえ、何だかいつもと様子が違うような…」

表面上はいつもと変わらないように見えるが、桜葉はこの一年いつも康太先生を見ていたからか微小な仕草や表情から体調の良し悪しが少しだけわかるようになっていた。
だから今日の先生は多少疲れているのかなと桜葉は感じていたのだ。

「……あ~、まぁちょっと最近、変なメールが──あ、いや…何でもないよ、たいしたことではないから気にしないで」

「…はい」


レストランに着き窓際の席へと案内された二人は飲み物を頼み待つ間、付き合って一年の出来事を振り返り楽しそうに歓談していた。
しかし二十歳になったとは言え、こんな豪華なレストランに自分がいると思うとどことなくソワソワして何だか落ち着かない様子の桜葉。

(あ〜、でもこの料理すごく美味しい…家族にも食べさせてあげたいなぁ。
──けど、皆ごめんっ。今夜だけは康太先生とずっといること許してっ)

桜葉が落ち着かないのにはもう一つ理由があった。
明日は土曜日で先生は休み、桜葉も今日と明日は休みを取ってある。
二十歳になった今日、彼女は覚悟を決めて康太先生にある事を伝えようとしていたのだ。

(女性からこんなことを言うのはどうかと思ったんだけど……今夜は康太先生とずっと一緒にいたいって……言うんだ)


そんな想いを胸に秘めながら、約一時間半ほどでコース料理や締めのスイーツまで全て食べ終わり、二人にとっての楽しい時間は次第に終焉を迎えようとしていた。

「──じゃあ、そろそろ出ようか。あまり遅くなると弦気くん達が心配するからね、今日は家まで送るよ」

この一年間、弟達の面倒や家の事情などもあって、先生とデートするのは休みが重なった時か、バイトが終わった夜に少し逢うことぐらいしか実際なかったのだ。
だからお泊りなどももちろんあるわけがなく、一日中一緒にいられたことなど皆無だった。

でもそれも、康太先生が桜葉の家の事情や年齢を考慮してくれた結果──もちろん好きが大きくなるにつれてその寂しさは増していったが、先生のそんな大切に想ってくれる気持ちが桜葉にはとても嬉しく感じていた。
だから自分の子供っぽいワガママも言わず我慢することができた……けれど──


先生が椅子から立ち上がろうとしたその瞬間、「あっ…」っと桜葉は咄嗟に彼の手を掴んでしまったのである。
普段あまり見たことのない桜葉の珍しい行動に先生はキョトンとした表情を浮かべこちらを見つめてきた。



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