ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


妙な体勢となってしまった──


倒れる桜葉の身体を咄嗟に支えようと片手を彼女の背中に回したが、瞬間それが覆い被さるような形になって共に倒れてしまった岳、そしてそのままベッドに仰向けで倒れる桜葉。
意図しないことではあったが、結果的にとてもマズイ体勢となってしまったのだ。

(……えっ? どどどどどうし──えっ?!)

かろうじて岳の腕が支えとなり身体の密着は避けられたが、それでも二人の距離は間近──顔なんて今にも唇が重なってしまいそうな近さだ。
今までも岳と接触したことは何度かあったが、岳を好きだと自覚してからのこの近距離さは心臓の高鳴り度合いがかなり違う。

自分の激しく高鳴る鼓動が岳にも聞こえてしまいそうなほど動揺する桜葉だったが、それでもなぜか真っ直ぐ見つめてくる岳の瞳からは目を離せずにいた。
そして岳もまた、桜葉の目から視線を外すことができなくなっている。

「──……まだ…少し熱い」

「…へっ……?」

全神経が岳の方へと向いていた桜葉は一瞬、彼が何を言っているのかすぐに理解することはできなかった。
それもそのはず、この近さの上に岳が言葉を呟くと彼の吐息が桜葉の耳にかかってしまう──すると全身がゾクゾクと不思議な感覚に陥ってしまうからだ。

「あ、えっと…下がってきたとはいえ、熱がまだ少しあるね。とりあえずもう遅いし、今日はこのまま(うち)に泊まっていくといいよ」

(…い、いやいや、だってっ……あ、熱いのはたぶんこの状況のせいであって──それに、このまま一緒だなんて、自分の心臓が持つ気しない)

手を当てていた桜葉の額から若干の熱を感じ取った岳はゆっくりとその手を離し、「倒して…ごめん」と一言呟きながら自分の身体を名残惜しくも起き上がらせたのである。

「い、いえ…大丈夫、です」

自分勝手だがさっきまでの状況が恥ずかしかった反面、いざ岳の身体が自分から離れていくと少し寂しさを感じてしまっている。



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