ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


今まで岳からは何度も無茶な願いをされてきたが、ここまで必死に喰らい付かれるのは初めてのことだった。

元々二人が知り合ったのは七年前、岳がハスミ不動産や蓮見 京一郎の調査を依頼したことがきっかけ──
冠衣の事務所がいつも暇だと高を括られているのか、いつも早急な依頼を上から目線で言ってくる。
そんな岳は本性の見えない相手だが、これまでお互い持ちつもたれつの関係を築いてきたのだ。

そんな岳が初めて冠衣に強く縋ってきている。
決してマゾなのではないが、初めて本当に頼られている感じがして冠衣は何故だか嬉しさを感じてしまったのだった。

「おうっ!
何だかよくわからんが任せておきなっ。取りあえず会社の中でさよちゃんを探せばいいんだな。
あ、それと今回久遠の周りを調べてわかったんだが、ある人物の過去がさよちゃんと繋がっていてな」

「ある人物…?」

「あぁ、実はな──」

急ぎの調査結果のみ簡潔に述べた冠衣の真実に岳は驚愕し言葉を失ってしまった。
それと同時に、直接的ではなくとも桜葉と自分の過去は一つの線に繋がっていたのだと運命さえ感じてしまう。

(…まさか桜葉さんとあの人が……彼女はその事実を知っているのだろうか?)

「報告ありがとうございます、でも冠衣さん……」

「なんだなんだぁ~? 別に礼の言葉は何度言ってくれても…」

「気安くさよちゃんって呼ばないでくださいね」

「………………わかった」

そのまま電話を切った岳は直ぐ様、会社の守衛室や受付に連絡をし冠衣がハスミ不動産へ入れるよう根回しをする。
そして岳がパーティー会場前の廊下を通り過ぎようとしたその時だった──

「院瀬見…さん?」

一人の女性が声をかけてきたのである。
ちょうどパーティーの準備が進められている会場内から出てきたその女性は蓮見 薫子であった。



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