ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「本当ですかっ? 良かった……トメ、いえ一ノ瀬さん、ありがとうございますっ」

「いやいや今まで通りトメでいいよ。……まぁ、じゃけど、その前にハスミ不動産のほうも変えていかなきゃならんがね、それも今夜のパーティーで蹴りが着きそうだ、それに──」

(え、今夜のパーティーってハスミの?……っていうか、蹴りが着くって一体…)

昨晩、岳から全てを聞いたと思っていたがここに来てトメが話すその内容の意味がさっぱりわからない。
今夜のパーティーのことは特に何も言っていなかった、ただ…桜葉の体調を案じて休むことを進めてくれただけ。

「ト、トメさん……もしかして、今夜のハスミのパーティーで何か…が起きるの?」

桜葉のその疑問に慌てて我の口を閉ざしたトメは何かを考え込み、慎重に言葉を発してくる。

「……あ~、さよちゃんは院瀬見くんから今日のこと…特に何も聞いてなかったかい?」

「?……は、い。今までのことやトメさんのこと、久藤さんのことは聞きましたけど、今日のことは特に…」

トメはしまったと苦い表情を浮かべると同時に深い溜め息を漏らす。

岳は昨晩、病室で事の真相を知った後、突然トメに謝罪を申し出てきたのだ。
もう自分の気持ちを誤魔化すことも歪める意味もなくなった岳にとって、薫子との結婚は勝手だが当然白紙に戻したいところである。
しかし、どうしようもないお嬢様でも偽って騙して復讐の駒にしようとした自身を恥じ、その旨を祖父であるトメに謝ってきたのだ。

(院瀬見くんがそんなことをする必要はどこにもない、むしろ謝らなければならないのはわしのほう──)

パーティーが終わった後、岳は薫子に結婚の意思がないことを伝え、同時に桜葉へ告白し全てを話すとも言っていた。

(──さよちゃんがわしのところに来て彼の今後について打診された時、昨晩二人の間に何があったかは知らないが、もしかしたら彼女は既に院瀬見くんから今日のことも聞いたのだと思っていたが……まさか今夜のことは話していなかったとは、な)

しかし、ここまで今夜のパーティーで何かが起こることを匂わせておいて今更誤魔化すこともできない。



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