ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「きっと……院瀬見くんは自分のことでさよちゃんを巻き込みたくはなかったんじゃろ、だから今夜のことも話さなかったと思うよ。
──で、今夜のパーティーはね……ハスミ不動産の社長である蓮見 京一郎を社長の座から引きずり落とす、っていう算段になってるんだ。
今までの悪事や醜い所業の証拠を突き付けることになっている。誂え向きに今夜は何社かのマスコミも招待されておるからの」

そんなトメの言葉は何やら自分ではとても処理しきれない内容の話しで、桜葉の頭の中では少々混乱をきたしている。

(……今夜のパーティーで、蓮見社長を引きずり落とす?…え、でもそれって)

「親会社でもある一ノ瀬商事にもかなりのダメージがありますよねっ?…もちろん会長であるトメさんにもお咎めが──」

「ん、やっぱりさよちゃんは優しいのぉ。……でも、わしのことは心配せんでも大丈夫じゃ、後のことはちゃんと考えておる。
──だが、今の脅威は京一郎から久藤に変わってきてもいるんだ」

「…久藤さんが…脅威──
あの、トメさん。実は私、院瀬見さんからお話しを聞いて…少し驚いたんです。
久藤さん、結構毎日食堂に来てくれて気さくによく話しかけてくれていたから…」

ハスミの食堂に勤め始めてすぐのこと。
ふと何かの視線を感じ顔を上げるとそこには、注文を待ちながら列に並ぶ久藤が桜葉をじっと見つめていたのである──


『あ、な、何か…?』

『あ、いや。君……新しく入ったバイトさん?』

『はいっ、鳴宮と言います、宜しくお願いしますっ』

『ハハッ、元気いいね。僕はハスミに勤めている久藤です、宜しくね……』


それからは挨拶のついでに、時々話し掛けてくれていた久藤。

そんな桜葉と久藤の接点を聞いたトメは手に持っていた湯呑みにギュと力が入る。
そして久藤について重い口を開いていった。

「……久藤は京一郎に、恨みや妬み、嫉妬があるんじゃよ。
彼は私の娘……さよちゃんの母親である香也子に深く惚れていた上に執拗く言い寄っていたからの。
──だが……」


(──そう、あれは香也子が京一郎と結婚した後のこと……)




< 176 / 178 >

この作品をシェア

pagetop