ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


それなら納得する。

確かに桜葉はちゃんと謝っていない。
謝ろうとしたが周りの目もあってなかなか言い出せていなかったのも事実──これは早く謝らなければと思った桜葉の口から謝罪の言葉を伝えようとする。

「あの…院瀬見さん。先日のことを怒って嫌がらせに来ていらっしゃるのなら、私はちゃんとあやま」

「あぁ、そうだ。今の鳴宮さんの想いも……当ててみようか?」

「え…?」

突拍子のないことを岳が突然言い始めたことに桜葉は唖然とするが、すぐにそれは驚きへと変わっていった。

「そうだな……君は今、プライベートで何かとても気になっていることがある……とか?」

「え、あっ何で知って──」

桜葉はその言葉を口にした途端、咄嗟に自分の口元を押さえる。
まだ誰にも言っていない確証のない違和感を当てられたような気がして、ついうっかり口が滑ってしまったのた。

確かに岳の言う通り、桜葉にはここ三〜四日とても気になっていることがある
──それは


“誰かに見られている”

──ということ。

その違和感を感じるのは決まって、会社から帰る道のりとこの食堂にいる時だ。
しかし、この食堂には社員以外に一般の人も利用することができるし、帰り道もたくさんの人がいる──気のせいと言えば気のせいなのかもしれない。
確証もないのに他の人に相談する訳にもいかないと思っていた所だった。

でも……何かとてつもない寒気を感じるその視線は桜葉にとってとても気持ち悪いもの、ここ数日寝不足気味なのもその心配事が原因だ。

(……いや、そもそもこの食堂での視線に限っては院瀬見さん絡みの女性視線かもしれないし)

明らかに動揺している桜葉の様子に岳は何かを感じ取り、グイッと近距離まで顔を近づけてくる。
──がその瞬間、桜葉の背中にいつも以上の寒気を感じる視線が突き刺さり、一気に鳥肌が立ち始めていった。

(…院瀬見さんが近付いた途端、この嫌な視線……やっぱり彼の女性絡み?)

静かに周りを見渡す桜葉の耳元で気づけば岳が小声で尋ねてくる。

「ねぇ、鳴宮さん…」

そのイケメンボイスと掛かる息が何ともくすぐったい。



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