ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


『噂?……ってお前、やること何だか無茶し過ぎやしないかぁ!? 別に普通に捕まえりゃいいじゃねぇか。しかも今回のやり方は、彼女にも危険が及ぶかもしれなかったんだぞ』

「だから冠衣さんに朝から晩まで彼女の護衛をつけさせたんじゃないですか。……それとも対象者を危険に晒してしまうほど冠衣さんは弱いのですか?」

『…くぅっ! 院瀬見、お前その性格、治した方がいいぞ!』

「ご忠告どうも。──とにかく、信用のおける同期二人に食堂であいつの隣に座ってもらい、鳴宮さんが今日で退職するってデマを彼にだけ聞こえるように会話してもらったんです。
そしたら勝手に恋人だと、自分の彼女だと思っているあいつにとっては寝耳に水……いくら自分に勇気がないからって勝手にいなくなられるのは許せない、それも唯一のデート場所だと思っている所がなくなってしまうんだ。
そうなると直接話さなければ──ってことになるじゃないですか」

『……やっぱ、お前怖ぇーな。
……でもまぁ、早くこの件が片付いて良かったんじゃねぇか。これで心置きなく蓮見の家に嫁げるってもんだよなぁ院瀬見?』

冠衣のその言葉に身体がピクリと反応しすると岳の表情は険しい顔つきへと曇らせていく。


(相変わらず意地の悪いオヤジだ。こっちの気持ちに気付いて、反応を確かめるように痛い所をついてくる)

「──そうですね。…まぁ、鳴宮さんは俺の彼女でも何でもないので、冠衣さんの言葉の意味合いには何も感じませんが」

『……そんなこと言って…このままで本当にいいのか? 後悔する時がきっとくるぞ』


(後悔なんて──あるわけがない。俺の気持ちなんか今更どうでもいい……けど…)

「もし、そんな時が来るとしたら俺は……どうしたらいいんでしょうかね?」

桜葉に逢いたい、構いたいと思えば思うほど自分の行動にブレーキが効かなくなりそうで怖い。
岳は目を閉じ自分の身体を預けるように背もたれに寄りかかる。

(──でも、本当に……今更だ)


岳がゆっくり目を開くと視線の先には、綺麗な満月が妖しい光を放ち岳をジッと見つめてくるような気がした。

まるで、岳を責めるような静けさで──






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