ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

6.王子との食事会




──翌日・金曜日


『評判のいい定食屋さんがあるんだけど、そこの料理を食べてみてまずはメニュー考案の参考にしてみたらどうかな。
俺も前から気になってた店だし、良かったら一緒に行ってもいい?』


千沙のサブとして何か出来ないかと悩んでいた所、昨日、会社の玄関先で提案してくれた岳のその言葉。
翌日、この提案がきっかけとなり桜葉達は早速、とある人気定食屋の料理を食べに行くことになったのだ──


早めに仕事が終わる桜葉達は岳との約束の時間まで一旦家に帰り各々、身だしなみを整えることとなった。

──と言っても、桜葉は特に何かするわけでもなくいつも通りのスタイル。
ただ、一日働いて崩れかかっていた髪とお化粧だけは社会人として一応直しておこうと今、洗面台の鏡の前に立っているところなのだ。

(それにしても千沙さん、今日はすっごい喜んでたな〜)

今回の提案を千沙に話した時、「やったぁ! 憧れの王子と食事ができる〜!」……っていうような感じで今日一日中、千沙の興奮がずっと収まらない状態だったのだ。
それにたまたまその話しを聞いていた潮くんも、「俺も行っていいですか?」と、急遽参加することになった。
そんな千沙の嬉しそうな表情を思い出してはクスッとつい微笑んでしまう桜葉。

── だが、ふと鏡に映る自分を見た瞬間、髪を結ぶ桜葉の手がピタッと止まる。

そのままジッと鏡を見つめる視線の先には自分の左手首が映っている。
桜葉は左手首を見る度にふと昨日の岳とのやり取りを思い出してしまうのだ。
そして思い返せば掴まれたあの時の岳の手の感触が脳裏に蘇ってきてしまう──掴まれたところだけがジワッと温かく火照ってくるような気がする。

「……そう言えば、院瀬見さんの手……冷たかったな」

(雨が降ってて気温も下がってたし、外から帰ってきたばかりじゃ寒かったよね…。
それなのに、私が長話しなんてしちゃったもんだから……院瀬見さん、風邪ひいてなければいいんだけど)

昨日からずっと自分の行動に悔やんでばかりの桜葉だったが、それでも内心、今日の岳達との食事会は千沙と同様、とても楽しみにしているのだ。


── ピンポーン!

そんな物思いにふけっていた時、桜葉の部屋に甲高いチャイム音が鳴り響いたのである。




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