ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする





その評判が良いと言われる定食屋 “(まる)隠しの里” は、人通りの多いメインストリートに位置し五階建て雑居ビルの四階に入っていた。
岳や潮とはこのビルの前で待ち合わせの約束をしている。


十八時二十分──

先にビルに到着したのは潮だった。
バルカラーコートに白いシャツ、それに黒スキニーパンツを合わせた装いは親しみさを感じられるコーデに仕上がっている。
金髪と鋭い眼光のせいでちょい強面に見える潮からはあまり予想がつかない格好だ。
けれどモデル体型も相まってか、そのギャップがまた通りを歩く女性達の目を奪っていく。

しばらくすると、仕事終わりの岳もビルに到着したが── 彼の横にはもう一人、飛び入りで参加しようとしている神谷も一緒だ。
その神谷が突然、指を差しながら潮に話し掛けてきた。

「その髪色っ! えーと……確か君もうちの食堂の子だよね?」

初対面のはずなのにやけに距離の近い神谷に潮は少し怪訝そうな表情を浮かべる。

(……何だよ急に、馴れ馴れしい。人に指差すなよな)

「潮…祐介っす。今日同席させてもらうことになりました。……あなたは?」

「俺? 俺はハスミ企画部の神谷誠司って言うんだー、よろしくね~。あ、あとこいつは──」

「院瀬見さん、っすよね…知ってます。あなた有名人だし……最近、桜葉さんとよく話してるし」

そう言うと潮は敵意むき出しな目で岳を睨み付ける。

(桜葉さんは、なんでこんな奴と仲良くしてるんだろ?)

「……えっと、あ~…さ、桜葉ちゃん達、まだかなぁ~」

岳よりも明らかに色恋沙汰慣れしている神谷は、潮の反応からして即座に今の状況を何となく把握。
威嚇する潮とその状況に全く気づいていない岳── 位置的にこの二人の間に入ってしまったことに、少しばかり後悔した神谷は同時に岳を横目で見やる。

(…岳は付き合っていても、本気じゃない女性のことに対してはよく気が利くのに、自分から好きになった女性のことは……意外と鈍感過ぎるぐらい鈍感なんだな。自分に余裕がなくなるからなのか?)

結構、面倒な場面に居合わせてしまったと溜め息を吐いていた丁度その時、桜葉達が慌てた様子で合流してきたのである。

「すみませんっ! 少し遅れてしまって」

その言葉に反応し一斉に後ろを振り返った男達は皆、自分の目を見張ってしまった。




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