ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

7.その日の帰り道 *岳*




「本当は、お前が送っていきたかったんじゃないのか、岳」

定食屋での食事会がお開きとなり、帰る方向が同じである神谷に何もかも見透かされているような気がした。

「──なにが?」

けれど俺はその見透かされていることに気づかないふりをして聞き返す。

「桜葉ちゃんのことだよ。
送り狼役を潮くんに任せちゃって内心焦ってるんじゃないのか〜?」

「送り狼って…潮くんは別にそんなんじゃないだろう? それに、同じ方向の潮くんが送っていくのは自然なことじゃないか」

(まぁ……神谷の言う通り、夜道が心配なのもあって鳴宮さんを送って行きたかったのは事実だけれど…別に潮くんはただの同僚だし焦ってなんか…)

「おい岳っ、お前マジで言ってるのかぁ!?
あれはどう見ても潮くん、桜葉ちゃん狙いだったろう? あからさまに俺達……いや、おまえをライバル視してたじゃん」

「……は?…潮くんが?」

(…鳴宮さんを?──いや、俺は全く気が付かなかったが…)

実際のところ本当に何も気付けていなかった俺に、神谷は呆れた様子でこれ見よがしに大きな溜め息を吐いてくる。

「はぁ〜…確かにお前は昔からイケメンな上にハイスペ男子だよ!」

「な、何だよ急に…気持ち悪い」

「いやいやマジ、学生の頃から岳がすげぇモテて、何人かの女性と付き合ってたのは知ってるけどさぁ、それも皆美人ばかりっ!」

急に神谷は惜しげも無く、俺の華々しい女性遍歴を語り始めてきたのである。
その語りの意図がさっぱりわからない俺は無言になるしかなかった。

「しかしっ!
それって全部、女性達から言い寄られて付き合っただけだろ? 実際、交際期間も全て短かったし…
結局のところ、お前から本気で好きになった女性って今まで一人もいなかったよな。
──つまりは今までの女性経験は全て疑似恋愛みたいなもん……そういう軽い恋愛経験は豊富でも、本気(マジ)恋愛は岳にとってゼロに等しいってことっ」

「──はぁ…って言うかそれっ……ディスられてるのか、俺? よくわかんねぇから言いたいことがあるならハッキリ言えよ」




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