ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする

9.過去の記憶<後編>




「──ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!
うちとの契約を打ち切るって…一体どういうことですか?! あ、ちょ、ちょっと…もしもしっ?!」

その電話の相手は言いたいことだけ伝えると一方的に通話を切ってしまった。
残された父の耳には受話器のツーツーツー……という、無情な音だけが響き渡る。
父は何とも言い表せない怒りを、手に握る受話器に込めるとガンッと荒々しく受話器を置く。
そんな父の様子に心配そうな顔を浮かべた母が慌てて駆け寄ってきた。

「あなた……もしかして()()…ですか?」

頭を抱え深刻そうな目で母を見た父は、「あぁ……また契約を切られた」と深い溜め息を漏らす。


京一郎が店に来てから五日経つ──その間に訳も分からぬまま三件の取引先から突然契約を打ち切られたのだ。
いや、恐らく父も母も最初から誰の仕業かだなんて分かりきっていた。

折れない父の説得は早々に切り上げ、京一郎はこの店を自分の物にする為強硬手段に出たのだ。
今まで取引のあった有機野菜の農家や精肉店、それに飲料業者……きっと蓮見が裏で強引に手を回したのだろう。
次々と契約を切られてしまった今の最悪な状況は父と母にとって頭を悩ます種となっている。

「くそっ、蓮見の野郎……汚いマネしやがってっ。これじゃあ店も開けられないじゃないかっ!」

「でも、どうしましょう…今日、二件の予約が入ってしまっていて」

「お客様には申し訳ないが、断るしかないだろう」

悩んでいる暇なんかない。
少し時間はかかるかもしれないが、また新たな取引先を見つけるしかないのだ。
それに上手く取引先が見つかればこの状況を脱せるはず──楽観的過ぎるかもしれないが、両親は少なからずともそう思っていた。

──が、
それは京一郎の嫌がらせがこれだけで終わった時の場合だ。
もはや京一郎の所業はそれだけで終わるはずはなかった。




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