白い菫が紫色に染まる時
「本当に好きな人から貰えないと意味ないよ・・・・」

間に入った彼がそう静かに呟いていたのに、私は気づかなかった。

そして、夏休みに入ってから、二週間ほど経った。
私は毎日、少し寒いと感じるほどエアコンの効いた図書館で勉強をしている。
外との寒暖差でいつか体調を崩しそうだ。
お昼の時間になり、お腹が空き始めたので、自習室から出て飲食可能の休憩スペースに移動する。
今年の夏は時間の経過が遅く感じる。去年までは、毎日のようにあの二人と出かけていたのに。
ただ、集まって話しているだけの日もあったし、少し電車に乗って映画を見に行った日もあった。
あと、祭りにも行った・・・・。

そうだ。夏祭り。毎年、八月の二週目に地元で大きな祭りが開かれるのだ。

「今週か・・・・」

行きたいけれど、受験生の身としては憚られる。
親に頼らず、大学に行くと決めたからには浪人などありえない。
必ず現役で合格しなければならない。
そのプレッシャーのせいか、チーズ工場へ白澄にもまだ会いに行けていないのだ。
でも、一日くらい・・・。たまには、休む日があってもいいのではないだろうか。
今日はとりあえず白澄に会いに行って夏祭りに誘おうと決めた。

夕方頃に図書館を出てその足でチーズ工場に向かう。この時間は風が素肌にあたって気持ち良い。
夏はいくら北海道と言っても日中は暑い。でも、夕方には心地よい風が吹き,じめじめとした暑さは感じない。
だから、私は断然、冬より夏の方が好きだ。

「白澄、久しぶり!」

工場に入ると、ちょうど白澄は休憩スペースに座って飲み物を飲んでいた。
突然やってきた私に驚く。
連絡なしに突然来たので、いなかったらどうしようと思っていたが杞憂で終わった。
私は白澄の前に向かい合うようにして座る。

「どう最近は?」
「まあ、初めてのことでわからないこともあるし、まだまだ勉強しなきゃいけないこともあるけど、楽しいよ。社員の人達も良くしてくれるし」

白澄は意気揚々と話してくれた。心の底から新しいことを楽しんでいることが伝わってくる。

「菫は、勉強捗ってる?」
「ん~、まあまあかな。でも、どうしても現役で国立に行きたいし頑張らないと」
「そっか・・・・」
白澄は手に持つ飲み物を大きく一口飲む。
「あのさ・・・、菫ってどこの・・・、」
「ちょっと、真夏にお汁粉??」
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