白い菫が紫色に染まる時
職員室を出て、待たせている二人のために急ぎ足で教室へ向かった。
しかし、なぜか教室の前に陽翔だけが立っている。

「あれ、白澄は?」

私がそう大声で呼びかけると、陽翔は焦った表情で振り返り、「あれ・・」と小声で言いながら教室の中を指差し、視線を向けた。その視線の先には白澄と一人の女の子がいた。

「誰?」

あまり大きな声を出すのは良くなさそうだと判断して、私も小声で話す。

「隣のクラスの子だって。確か、名前は小百合さんだったかな。何か俺は邪魔みたいだったから、廊下に出たんだけど・・・・」

その小百合さんという彼女は白澄に手紙らしきものを渡して、教室を飛び出して行った。
彼女の頬は遠目から見てもわかるくらい真っ赤に染まっていた。


告白か・・・・・。


彼女が教室から離れたのを確認してから、ドアを開ける。
見ていなかったフリをするべきか迷った。なぜか、私は少し気まずいと思っていたのだ。
ただ、わざわざ見ていないフリをするのも変な気がした。

「それってラブレター?」

葛藤の末に絞り出した言葉だった。
白澄は私に今の一連の光景を見られていたと思わなかったのか、驚いているようだった。
一瞬、何とも言えない空気が流れる。

「何だよ。菫、戻ってきてたのか」
「すげえな。今時、手紙くれる女子なんていないぜ。それで、返事は?」

陽翔はそういう人の色恋沙汰が好きなので興味津々なようだ。ラブレターを貰った本人より浮足立っている。

「断ったよ。でも、手紙だけは貰ってほしいって言われて」
「まあ、そうだよな。お前は断るよな~」

俺だったらオッケーしたのに、羨ましい~とどこまで本気なのかわからないが、陽翔は悔しがっている。
「ラブレターか・・・。良いね、手紙を書く機会も貰う機会もなくなったし。私も貰ってみたいかも」
私がそう言うと、陽翔は不服そうな顔をした。

「女子は書く側だろ。というか、お前は書いてやれよ。」
「書いてやれって・・・。何よ、別に女子が貰ってもいいじゃん。というか、そもそも書く相手がいないし」

陽翔はお前なあと言いながらため息をついた。

「何でため息つくのよ」

何で呆れられているのか納得がいかない。

「ため息つきたくもなるわ。空気読めなさすぎて」
「どういうこと?」

私と陽翔が終わりのない言い合いしていると白澄が間に入り、言い合いは終わった。
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