白い菫が紫色に染まる時
あの頃に比べたら、一人で鍋を作れるようになったなんて成長したもんだ。
一人で鍋を作って、一人で鍋を食べるようになったのだ。一人で・・・・。
        
一人部屋で、鍋の準備をしながら、物思いにふけているところ、インターホンが鳴った。
現実に引き戻される。インターホンを鳴らしたのは蓮くんだった。

「どうしたの?まだ、できてないけど」
「入ってもいいですか?」
「う、うん。いいけど」

彼を家の中へ招くと、そのままキッチンに直行し手を洗い始めた。

「蓮くん、まだできてないからここにいても暇だと思うよ」
「いや、僕も鍋作ります」
「え?」
「菫さんの考えだと、僕はこのままの状態では菫さんから料理を頂くことができないじゃないですか」

私の考えとは、おそらく以前私が楓さんに言ったあの言葉のことを言っているのだろう。
まさか、覚えているなんて。言われた当の本人は忘れていそうだけど。

「僕も同じ意見なんで。相手のために何もしていないのに、その人から何かを与えてもらおうなんて理不尽ですよね。等価交換は成立させるべきだと思います」

私の面倒な持論に建前かもしれないけれど、賛同してくれたのが嬉しくて、気が付けば笑みを浮かべていた。
正直、この考えは理解されないと思っていた。
特に男性は私の父親のように何かしてもらって当たり前という考え方の人が多いと思っていたから・・・。

「よし。じゃあ、一緒に鍋を作りましょう!」

そして、料理を始めてみると蓮くんも一人暮らしだからか、手際が良いことがわかった。
むしろ、私より上手で器用だ。
思えばこうやって、誰かと鍋をわいわい作るのも久々だった。
二人で作ったおかげか、想像より速く鍋の準備が終わったので、あとは少し、ぐつぐつと寝かせて汁の味を具材にしみこませるだけだ。

「どうする?あと二十分ぐらいは寝かせたいなと思うんだけど・・・。一回、家戻る?」
「もし迷惑じゃなかったら、ここで待っててもいいですか?」
「え・・・、あ、うん。別にいいけど」

私は一瞬戸惑った。家に一旦帰ると思っていたからだ。

「僕、一回家に戻ったほうがいいですか?」

隠したつもりだったけれど、その一瞬の戸惑いを蓮くんは見逃さなかった。
申し訳なさそうな表情をして聞いてきた。

「いや、大丈夫です。全然ここにいてもらって」

特に拒否をする理由もなかったので、そう言って、強引に彼の背中を押し、床に座らせた。
戸惑いはしたが、嫌悪感は抱かなかった。

「ちょっと、鍋置くために、大きい机を出してきますね」
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