白い菫が紫色に染まる時
私の動揺が彼に伝わり、気を遣わせてしまったと思った。
以前と同じだと思った。
あの日、楓さんに「お互いをなぜ知っているのか?」と聞かれて、私が困っているのに気づき、嘘をついてくれていたこともあった。
彼は他人の感情に敏感なのかもしれない。

折りたたみ式の机を持ってきて広げた時、ちょうどインターホンが鳴った。
ドアを開けると、そこにいたのは予想通りの人物だった。

「まだ、できてないですよ。」
「え、ラインで呼ばれたから来たんだけど・・・」
「え?」
「僕がラインしたんです。どっちにしろ、もうそろそろ食べられる頃になると思うし。多少、早めに呼ぶのは問題ないかなと」

私は楓さんを招き、蓮くんと同じように座ってもらった。

「めっちゃ、いい匂いするな。腹減ってきたわ~」

そろそろ、頃合いかなと思い私は床に座らず、キッチンに立った。

「というか、蓮は何で先に来てたんだ?」
「僕も鍋を一緒に作ってたんで」
「え、それなら、言ってくれよ~。俺も手伝いに来たのに」
「だって、それじゃあ食材をくれたお礼にならないじゃないですか」

私は二人の会話にそう口を挟み、そしてキッチンから持ってきた鍋を机の上に置いた。

「はい。鍋です」
「良い感じにできましたね」

蓮くんは満足げな表情で鍋をのぞき込む。
一方、楓さんは鍋を見て「めっちゃうまそう!!」と感嘆していた。
私も床に座り食べる準備ができたので、三人で「いただきます」と口にして鍋を食べ始めた。

「うん、うまい」
「やっぱり、もっと寝かせたかったかな」
「いや、十分うまいよ」

そう言って楓さんは自身の皿に取り分けた野菜を平らげた。
蓮くんの箸も進んでいた。        
二人が美味しいと言ってくれたのなら、良かった。
誰かとご飯を作って、一緒に食べる。
こんな些細なことが、案外一番幸せなことなのかもしれない。
全員、お腹が減っていたからか、かなり量のあった鍋を完食した。

「また、鍋やりましょうね。楽しかったんで」
「いいですね」
「おう、楽しみにしてるわ」

私は二人に軽く手を振ってドアを閉めた。

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