白い菫が紫色に染まる時
先ほどの大量の食品は仕事の都合で頂いたものと言っていた。
そして、長期の海外出張。
また、桜さんは身につけるものが洗練されている。全く何の職業か予想できない。 
  
「雑誌の編集の仕事よ。今はフランスのグルメ特集を任されていて、それで長期で出張してたってわけ」

なるほど。だから、あの大量の食品か・・。
それにしても、話せば話すほど彼女がかっこいい洗練された女性だと実感する。
バリバリ働いて、自分の好きなように生きている。羨やましい。

「そういえば、桃李さん。菫ちゃん以外に新しくここに来た子いる?」
「あ~、もう一人、蓮くんって大学一年生の子がいるよ」
「じゃあ、その子にも今度挨拶しとかないとね」

ごちそうさまでしたという声が聞こえたので、彼女の前に置いてある器を見ると、綺麗に空になっていた。

そして、新しい出会いのあった夏休みも終わり、後期の授業が始まった。
長い夏休みだと思っていたが、案外バイトで忙しく体感的にはそこまで長く感じなかった。

それは、あのアパートでの日々が楽しかったのもあるだろう。
みんなで一緒にご飯を食べたり、楓さんの提案で花火をしたり・・・。
おかげで寂しいと感じることが、大分減っていた。
特に一人で食べるより、誰かと共にするご飯の方が美味しさを身に染みて感じた。

楓さんは外に遊びに行くことが多かったけれど、私と蓮くんの二人はバイト先とアパートの往復しかしていなかった。
学部も同じということもあり、出されている語学のレポート課題の相談をするなど、自然と話す時間が多くなった。
この夏休み期間にだいぶ距離が縮まったと思う。
知り合いという関係から友人に変わった。

そんな夏の記憶を思い返しながら、私は久しぶりにキャンパスに足を踏み入れる。
キャンパスの道に沿うように植えられた木々はすっかり黄色く染まっており、あと少しで冬がやってくることを予感させた。
教室に向かい一人、黄色い葉が落ちる中歩いていると、後ろから声をかけられた。

「菫!」

振り向くまでもない。この声は紅葉だ。
そして、それと同時に私は思い出した。
連絡先が消えてしまい、夏休み二ヶ月半の期間、全く連絡がとれなかったことを。
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