白い菫が紫色に染まる時
私たちの声が聞こえたのか、桃李さんが家のドアから出てきた。

「桃李さん。お土産あるんですけど、お邪魔してもいいですか?」
「おお、ありがとう。ありがとう」    

桜さんは、かなり桃李さんと仲が深いみたいだ。
いったい、桜さんはいつからこのアパートに住んでいるのだろう。

「ねえねえ、菫ちゃんも来なよ~」

そう桜さんに誘われて、私もお邪魔することになった。
桜さんの明るさに自然と引き寄せられる。
会って数分しか経っていないのに、心の壁を感じさせない。

「はい。これお土産」
「おお、こんなに大量に。ありがたいねえ。なんかお礼しなきゃね」
「お礼なんていいんですよ。私がいつもお世話になってるんだから」

桃李さんは「でもね~」と言いながら、完全には納得しきれていないようだ。

「あ、桃李さん。じゃあ、米あります?」
「ちょうど、炊き立てがあるよ」
「それ、食べてもいいですか?今ちょうど、この子からおかず貰ったから、昼飯にしようと思ってて」

桃李さんは、そのお願いに勿論だよと答えた。
そして、桜さんは、慣れた様子でキッチンを使い、食器も出し始めた。
桃李さんとの会話の様子からも彼女が長年このアパートに住んでいることが伺える。

桃李さんに、私もご飯を食べるかと聞かれたが、先ほど昼飯を食べたばかりなので断り、お茶だけ貰う。
米をよそい、肉じゃがを温めた桜さんは、私の前に座って、ものすごい勢いでご飯を食べ始めた。
一口食べてすぐに美味しいという感想をくれ、素直にそのような言葉を貰えて私は嬉しくなった。

「あの・・・、桜さんって、いつからここに住んでいるんですか?」
「桜ちゃんは、大学一年生の時からここにいるから、かれこれ、十年くらいかねえ」
「え?!」

ということは、大学時代から一度も引っ越していないということか。

「そうなのよ。仕事場もここから割と近いし、引っ越す必要がないから別にいいかな~って。私にとっては、ここが一番居心地が良いし。これからも、転勤とかない限りここに住み続ける予定よ。自分のお金は自分のために使いたいから、結婚とかする気もないし」

やはり、身なりを見た時、お金に余裕のある人だと思ったけれど、彼女の発言から推測するに大方、当たっているようだ。

「ちなみに、どこにお勤めなんですか?」
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