白い菫が紫色に染まる時
「次こそ、本当に大事にしてくれる人探す」
「うん。頑張って・・・」

基本的に、彼女はポジティブ思考だし、一通り落ち込んだら立ち直るのは速いのかもしれない。
その後、二・三時間テレビを見ながらダラダラと会話をして、夕方になったので彼女は帰ることになった。
私は駅まで彼女を送ると言って、一緒に家を出た。

「また、遊びにきていい~?」
「いいよ、いつでも」

紅葉と横並びで歩いていると前からこちらに歩いて来ている人に名前を呼ばれた。
その人の後ろに見える夕日が沈みかけており、そちらに目を向けると眩しく思わず目を閉じた。

「菫ちゃん!」

この声は、楓さんだ。

「楓さん、今帰りですか?」

夕方の時間帯に楓さんが家にいることは少ないので珍しい。

「ああ、今日は授業数少なかったし、遊ぶ予定も特になかったからな」

そして、彼は私の隣にいる紅葉に気づいて、誰?とでも言いたそうな顔で目配せをしてきた。

「あ、彼女は秋川紅葉です。同じクラスで」
「へ~。紅葉ちゃんか。俺は佐藤楓です。菫ちゃんとは深いお付き合いを・・・・」
「ちょっと、変なこと言わないでください」

楓さんの初対面にも関わらず距離感の近さに、紅葉は放心状態になっている。

「はいはい。俺はただの菫ちゃんの隣人です。いつもご飯とか差し入れしてもらってる仲で、お世話になってます」

彼がよろしくと声をかけても、紅葉は未だに呆然としていた。
そして、少し時差があってから、よろしくお願いしますと控えめな声を発した。
彼女がそんな態度を取るのは珍しいと思ったけれど、楓さんはあまり気にならなかったようだ。

「あ、そうそう。今日も実家から食材届いたから、後でうちに取りに来て」
「はい、ありがとうございます」
そして、じゃあね~と陽気に手を振りながら去っていった。
「あの人・・・。大学の先輩?」

先ほどまで、呆然としていた彼女が言葉をぽつりと放った。

「うん。そうだよ。理工学部の二年生だからキャンパスは少し違うけど」

彼女はなかなかうつむいている顔を上げないので、心配になり私は彼女の肩を軽く叩く。

「ちょっと・・・、どうし」
「めっちゃ、かっこいい!!!」
「え?」

突然顔を上げたと思いきや、彼女の目はこれまでにないほど輝いていた。
ラーメンを食べている時よりも。
輝いているというより、ハートマークが浮かんでいると言った方が良いのだろうか。
この状況的には。
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